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人工知能の核心

2017.8.7

著者:羽生善治 , NHKスペシャル取材班

出版社:NHK出版

出版年月日:2017年3月10日

価格:780円


空前の将棋ブームがやってきた。中学生棋士、藤井聡太四段が14歳でプロ入りから公式戦無敗の29連勝という前人未到の記録を達成した。藤井四段は人工知能を搭載した将棋ソフトを研究に活用していることも話題となった。

2016年5月、NHKで「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」が放送された。本書の著者でもある羽生善治三冠(2017年7月時点)が同番組のレポーター役を務め、最先端の人工知能研究の現場への取材に同行した。本書は番組製作時の取材成果としてまとめられたものだ。

本書では将棋界の第一人者でもある羽生が、書名でもある「人工知能の核心」についてズバリ語っている。羽生は人工知能にも造詣が深いことが知られており、過去には、研究者と共に人間と人工知能の思考スタイルの違いについて検討した書籍を出版した経験もある。また1996年には、「コンピュータがプロ棋士を負かす日は?」という問いに対して多くの棋士が「そんな日は来ない」と否定する中、羽生は「2015年」と回答していた。実際にプロ棋士が人工知能搭載の将棋ソフトに負けたのは2013年であり、そのほぼ正確な予測が話題を呼んだ。

本書ではまず、羽生が人工知能の論点について咀嚼した内容を「核心」として一人称で語っている。そのため、一見難解にみえる人工知能の話題がわかりやすく身近となり、自然と興味を引かれる。さらに、各章末にはNHKスペシャル取材班による密度の濃い取材成果を踏まえた客観的な解説や、関連するトピックが「レポート」として肉付けされている。この特徴的な構成により人工知能について深い理解が促されるであろう。

本書の最大の魅力は、なんといっても羽生が語る「人間と人工知能」の対比だ。人間と人工知能はなにが似ていてなにが違うのだろうか。羽生は人間にあって人工知能にはないものとして「美意識」の存在を指摘している。将棋の指し手を例に挙げると、棋士は指し手を「大体こんな感じ」と「美意識」で行っているが、人工知能にはそれがないという。「美意識」を切り口として人間と人工知能を対比してみせたのは、羽生ならではの視点であろう。

人工知能は敵か、味方か。究極的なこの問いに羽生は次のように答える。「人工知能をいわば『仮想敵』のように位置づけてしまって、その効果的な利用法を検討しないのは、得策ではありません。うまく活用すれば、必ず私たち人間にとって大きな力となるはずです」。本書を読みながら「人間とはなにか」、「人間はどうあるべきか」と立ち止まって考えてしまう読者は多いのではないだろうか。

人工知能は、今もその進化の歩みを止めることはない。本書の元となった番組放送から1年、2017年6月に「人工知能 天使か悪魔か 2017」が続編として放送された。同番組では、すでに社会に進出し、モンスターのような進化を遂げた人工知能の姿が紹介されていた。乗客探しでベテランタクシー運転手を凌ぎ、人事担当者よりも正確に退職の可能性が高い社員を見つけ出し対策を講じるよう注意喚起する人工知能。もはや人間は敵ではない。ある面では人間を圧倒的に上回る能力を持つ人工知能が社会の様々な分野に進出している今、我々が生きていく中で人工知能はもはや無視できない存在といえるだろう。

今後、我々は人工知能という巨大な存在とどのように向き合っていくべきか。本書は人工知能についての基礎知識に触れながら課題について整理されている。今からでも遅くはない。人工知能について知り、人間そしてこれからの社会のあり方について考えるため、本書を手に取ることを勧める。

福嶋篤(CoSTEP13期本科ライティング)