選科A 2班 「どっちもどっち」
大杉 遥、小名木 陽子、木村 成介、高橋 さおり、渡邉 拓巳
科学技術は、社会の課題解決に役立っていますが万能ではありません。「科学に問うことはできるが、科学によってのみでは答えることができない問題」をトランスサイエンスといいます。私たちは、トランスサイエンスをテーマとして、参加者に科学技術について、さまざまな意見や立場を考慮に入れながら、自分の考えを深めてもらうサイエンスイベントを実施しました。
1. イベントの目的と達成目標
本イベントは、対象を「中学生以上の一般人」と想定し、以下を目的と達成目標としました。
【目的】
トランスサイエンスについて、自分の考えを深めてもらう
【達成目標】
・科学だけでは解決できない問題があることを理解してもらう
・対象の科学技術について、さまざまな情報や異なる意見・立場を考慮にいれて自分の考えを巡らせる
2. イベントに向けた準備
イベント準備においては、まず、「参加者に何を伝えたいか」について話し合いました。その結果、「参加者が科学の諸問題について考える場」としたいということになり、トランスサイエンスをテーマとしてとりあげることにしました。イベント準備では、チームメンバー全員が積極的に意見を出しながらアイデアを創りあげることができました。
3. イベントの実践
【イベントのねらい】
本イベントは、「培養肉(細胞培養技術で人工的に 作成した食肉)」という新しい技術をトピックとして、参加者に培養肉を「食べるか」、「食べないか」を選んでもらう構成にしました。答えることが難しい問いにあえて「二者択一」で答えを選ばせることで、心の葛藤を感じてもらい、情報量の違いや、対話の有無、また、立場の違いによる意見(心)の変化を体験できるようなイベントとすることを目指しました。
【イベントの流れ】
(1) 事前準備
参加者にワークシートとカルパスを小瓶に入れて培養肉に模したものを配付し、3〜4名のグループをつくりました。
(2) イベント趣旨の説明
イベントの初めに、趣旨を簡単に説明しました。
(3)生命科学的な観点からの情報提供
培養肉の作成方法や細胞培養技術などを説明しました。
(4) どちらにしようかな(1回目)
「あなたは培養肉を食べるか、食べないか」という問いに、「どちらにしようかな!?」の合図に合わせて一斉に選んでもらいました。
(5)社会科学的な観点からの情報提供
培養肉が開発されている背景やメリット、デメリットについて説明しました。
(6)どちらにしようかな(2回目)
1回目と同様に、「食べるか、食べないか」を選んでもらいました。
(7)対話
培養肉について、最初はデメリットのみ、その後メリットのみを言い合うワークをしました。出た意見を全体共有しました。
(8)どちらにしようかな(3回目)
1回目と同様に、「食べるか、食べないか」を選んでもらいました。
(9)トランスサイエンスについての情報提供
トランスサイエンスの定義や具体例について紹介しました。
(10)どちらにしようかな(4回目)
家族でキャンプに来ている状況を想像してもらい、「子どもと一緒に培養肉を食べるか、食べないか」を選んでもらいました。
(11)まとめ
荘子の「機事ある者は必ず機心あり」という故事を紹介し、科学技術を考える上でも人の心が大切であることを伝えてイベントを終了しました。
4. 参加者アンケートの結果
アンケートでは、「食べるか、食べないか」の意見の変化と選んだ理由について調査しました。約6割の参加者は、はじめの意見を変えませんでした。特徴的なのは、このイベントで初めて培養肉について知った参加者は、全員意見を変えていませんでした。事前知識がある場合は、社会問題などの情報も踏まえて判断をしているのに対し、事前知識がない場合は、自身の感覚や生活に置き換えて判断している傾向があると考えられました。
5. 集中演習受講生からのコメント
受講生からは、「グループワークであえてほめる、けなすという方法がやりやすかった」などポジティブなコメントをたくさんいただきました。一方、改善点も多く寄せられ、例えば、「揺れ動いた人に何で揺れたのか聞きたかった」などがあり、共有の方法が課題であると感じました。また、「培養肉とトランスサイエンスとの繋がりが見えにくかった」との意見がありました。準備の段階では原子力問題などを取り上げることも考えていましたが、政治的信条や経済的利害が絡むと、自由に意見を述べることができないと考え、培養肉をテーマとしました。何をトピックにするかは、トランスサイエンスというテーマを伝える上で大きな課題だと感じました。
6. イベントを通じて学んだこと
・グループワークの重要性
グループワークでは、メンバーを信頼して意見を出し合い、また、適材適所で仕事を任せて準備をすすめることができました。全員が一つの方向に向かって力を発揮することで、一人ではできないものを創りあげられることを学びました。
・目的と手段を早期に決定する重要性
比較的早い段階でイベントの大きな方向性を決定できたことで、その後の役割分担やイベント準備を効率よく進めることができました。目的と手段を早期に決定し、かつ、それがグループ内で共有されていることが重要であることを学びました。
・準備やリハーサルの重要性
今回はリハーサルを3回行いました。その度にたくさん課題が出たことで、イベントの完成度をあげることができたと思います。イベントをするにあたっては、準備やリハーサルが重要であることを学びました。