実践+発信

リサーチライティング実習 活動報告「2015年度グッドデザイン受賞展」

2015.12.29

【レポート:間冬子、今井奈央子、道林千晶、奥聡史(4名ともCoSTEP選科B所属)】

CoSTEPが2005年の設立当初から実施してきた「サイエンス・カフェ札幌」がグッドデザイン賞2015を受賞しました。この受賞をきっかけに、リサーチ&ライティング実習のメンバーのうち4名は、グッドデザイン賞受賞作品を科学技術コミュニケーションの観点で捉えてみることをテーマとしてリサーチすることになりました。

実際にグッドデザイン賞受賞作品を見てみなければ始まらない!ということで私たちは10月30日から11月4日に東京ミッドタウンで開催された、グッドデザイン賞受賞展「GOOD DESIGN EXHIBITION 2015(G展)」に行ってきました。会場には今年のグッドデザイン賞受賞作品1,337件が所狭しと展示されており、どこから見ていけばよいのか目移りしてしまうほどでした。グッドデザイン賞はデザインを「新たな物事を考え生み出すという行為」として捉えているため、会場に展示されている作品は家電や生活雑貨、建築物などの有形物からソフトウェア、コミュニケーションなどの無形物まで多岐に渡っていました。

今回の活動報告では本実習のメンバー4人が科学技術コミュニケーションを切り口として選んだ4作品をご紹介します。


未来を実現するデザインと伝えるデザイン

今井奈央子

「デザイン」は我々の生活をより豊かにするための「終わりのない継続的な創造的思考活動」と定義します。

(グッドデザイン賞公式サイトより引用。)

株式会社東芝の次世代エネルギー事業開発プロジェクト 「自立型水素エネルギー供給システム H2One(以下、H2One)」及び「水素エネルギー研究開発センター(以下、研究開発センター)」が受賞したことは、近年のグッドデザイン賞が「デザイン」とはかたちといった外観だけではなく広く創造的な活動や行為であると考えていることを象徴しています。

H2Oneは、水から水素を「つくる」、燃料としての水素を「ためる」、必要に応じて電気と温水に換えて「つかう」といった、水素によるエネルギー供給システムを「パッケージ」として事業化したものです。水素による自立分散型エネルギー社会の新たな可能性を提示していることが評価されました。

そしてH2Oneが導く水素エネルギー社会を説明する役割を担うのが、研究開発センターです。建築、装置システム、グラフィック等を通して、水素エネルギーという目に見えない技術を可視化し、技術そのものを説明するだけでなく、社会背景、未来に向けての展望の理解を深めるという、科学技術コミュニケーションの目的を果たしています。

未来を実現するH2One、そしてそれを伝える研究開発センター。次世代エネルギー事業開発プロジェクトは、技術とコミュニケーション双方向のアプローチによって、より豊かなエネルギー社会を「デザイン」する、その好例といえるでしょう。

【作品詳細】

次世代エネルギー事業開発プロジェクト[自立型水素エネルギー供給システム H2One]

https://www.g-mark.org/award/describe/42677

次世代エネルギー事業開発プロジェクト[水素エネルギー研究開発センター]

https://www.g-mark.org/award/describe/43289


社会を動かした「自分のためのデザイン」

道林千晶

ここでナゾナゾです。ストールのようにおしゃれで、肩に食い込まなくて、レンズカバーやカメラの備品も入れられる。そんなカメラ関連アイテムは何でしょうか。

専用のバッグ?驚くことなかれ、なんと、カメラストラップなのです。その名も「Camera Sling !」。これはSakura Sling projectの杉山さくらさんが発案、製造、販売、接客をすべて一人でこなしている商品で、受賞展期間中に開設されたキャンペーンサイト「MEETinG」の一般投票による人気ランキングでは、1,337件の受賞作品の中で、なんと第2位に入りました。

杉山さくらさんにインタビューさせていただきましたが、デザインや機能面も大変優れ、製品自体が魅力的であったのはもちろん、さくらさんの思いや、来場者とのコミュニケーション手法は参考になる点が多く、強く印象に残っています。

最初は自分自身のために作った一本の「Camera Sling !」が、周囲の人たちの要望の結果、商品化され、やがて口コミで評判が広がり、グッドデザイン賞を受賞するまでのストーリーはとても感動的でした。もちろん、最初から最後まで順風満帆であったわけではありません。製品化にあたってはさくらさんが一人で進めてきたと書きましたが、そこに至るまでの間には多くの人たちの協力がありました。大企業や著名なデザイナーが受賞することの多い、グッドデザイン賞。その中にあって、さくらさんの受賞は異彩を放っています。人気ランキング第2位に入ったのは、彼女の製品に対するまっすぐで真剣な姿勢が草の根的に周囲の人たちの理解を得た結果といえるのかもしれません。

【作品詳細】

カメラ用ストラップ[Camera Sling !(カメラスリング)]

https://www.g-mark.org/award/describe/42125


情報を魅せるためのデザイン

間 冬子

私たちは建物の中で生活時間の多くを過ごしています。しかし、建物の建築設計段階で快適に過ごす空間を作るためにどのような検討作業が行われているかは意外と知られていません。この受賞作品は、建築をカタチづくるための重要なファクターである空気や熱、人の動きなど「みえないもの」を見える化し、設計手法を提示します。建築設計段階の一部を可視化し、美しい映像によってシミュレーションを魅せるという手法は非常に新しいプレゼンテーションの方法で、まるでアートのようでもあり、普段は建築になじみのない一般の方にも受け入れやすいものになっています。

この作品からは新しいプレゼンテーション手法によるコミュニケーションの広がりが見えてきます。伝える媒体が異なるだけで、人の印象はこれほどまでに違うのだと強く感じました。ただ美しく見せるだけではなく、伝える相手のことを考えたデザイン実践例の好例です。

デザインの力でこれまで見えていなかったものを見せ、伝える内容の幅を広げることができる。これは、科学技術コミュニケーションにも通じるものがあります。科学技術コミュニケーションの手法もこれまでの形にとらわれることなく、常に工夫し、デザインしていくことができれば、本作品のように斬新なスタイルを実現できるのではないでしょうか。そのプロセスは私自身のコミュニケーションの新たな形を模索することにもつながると思いました。

 

【作品詳細】

展示空間[みえないものを設計する-清水建設の6つのプロジェクト-]

https://www.g-mark.org/award/describe/42966


誰もがコーヒー片手に双方向の対話で科学について考える「触媒としてのサイエンス・カフェ札幌」

奥 聡史

私が調査対象に選んだ「サイエンス・カフェ札幌」は、CoSTEPが開催している双方向のコミュニケーションで科学について考えるイベントです。大きな講演会では、講演者の説明に対して、参加者それぞれが抱く意見や質問のすべてを反映するのは難しく、講演内容すべてについて理解したり議論したりするにはハードルが高くなってしまいます。しかし、サイエンス・カフェ札幌は、「札幌駅すぐそこの街中の本屋さん(紀伊国屋書店札幌本店)」・「カフェの合間に流れるテンポのよいBGM」・「休憩中に記入するコミュニケーションカード」の三つの工夫を導入することで、身近な場所なのに時間の感覚を忘れさせるほど、ゲストの研究者と参加者が熱い議論を交わすことができます。

 

特に休憩中に記入するコミュニケーションカードの効果は絶大! 皆さんも人前では恥ずかしくて自分の意見を出しづらい時や、考えをうまくまとめられない時が一度はあるとは思います。そんな意見や質問をコミュニケーションカードに記入すれば、研究者と市民の仲介役であるファシリテーターがきちんとまとめてくれるだけではなく、講演者と聞き手の双方向の対話を生み出し、どんな複雑なテーマのときでも、参加者の関心が話題から離れることはありません。

さらに、過去10年間のサイエンス・カフェ札幌をきっかけにCoSTEP修了生が科学技術コミュニケーションの大切さを伝えるために、日本各地で様々なサイエンスカフェを開催しています。今年で11年目を迎えるサイエンス・カフェ札幌はもちろん、そこから派生したサイエンスカフェにも注目し、今後も社会に科学の面白さをアピールしていく姿勢に期待しつつ、科学に携わる私自身も日々頑張りたいと思いました。

  

【作品詳細】

サイエンス・カフェ[触媒としてのサイエンス・カフェ札幌 〜北海道大学 高等教育推進機構 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)の10年間の取り組み〜]

https://www.g-mark.org/award/describe/43247


取材を終えて

今回のCoSTEPのグッドデザイン賞受賞に合わせて受賞展に駆け付けたのは私たち11期の受講生だけではありません。CoSTEPの初期から活動に携わってこられた隈本邦彦先生(現・江戸川大学 メディアコミュニケーション学部 マス・コミュニケーション学科 教授)やOB・OGの皆さんも来場されており、これまでのCoSTEPの活動とこれからの科学技術コミュニケーションについてとても有意義なお話を伺うことができました。このような科学技術コミュニケーションを通じた輪の広がりこそがCoSTEPのかけがえのない宝なのだと思います。

 
http://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/costep/contents/article/1382/