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大学と産業界のキャズムを超える

2010.11.26

 11月10日の講義は、サイジニア株式会社CEOの吉井伸一郎先生を講師としてお呼びし、サイジニア株式会社のコアテクノロジーとその創業に至る経緯、またベンチャー企業のメンタリティとアントレプレナーシップ(起業家精神)について講義が行われました。

 吉井先生は、進化・学習理論の研究者として出発した後、ソフトバンクに入社。その後北大の助教授として北大に赴任し、複雑ネットワーク理論を研究します。しかしその後、大学の研究者から、起業家として独立することを決意し、大学を退職してサイジニア株式会社を設立するに至ります。こうしたアカデミックと産業界をまたがる活動を行ってきた経緯から、大学と産業界について、研究成果とビジネスの結びつきについて、実践に裏付けられた説得力のある講義を行っていただきました。

 現在、人類が直面する情報量は、人類が30万年前から蓄積してきた情報をわずか3年で超えてしまうほどの勢いで増殖しています。そうした状況の中、どのようにユーザが必要とする情報を提供できるのか、「情報を探す」のではなく「情報に出くわす」ための「ディスカバリーサービス」として、サイジニアが開発した「デクワス」について紹介されました。「デクワス」は複雑ネットワーク理論と複雑系の科学をベースに、ユーザの行動履歴を解析し、ユーザの趣味思考を抽出してレコメンデーション(推薦)を行うエンジンです。吉井先生は、「Web検索」の先にある未来、そこで重要となるイノベーション精神について、随所に成功したアントレプレナーの名言をちりばめながら説明くださいました。

 吉井先生は、起業に至る大きなきっかけを、Googleの登場にあると述べられました。その成功を目の当たりにする中で、通常の研究開発から製造と、イノベーティブなWebビジネスでの実現におけるプロセスのギャップ、スピード感の違いを痛感し、起業を考えるに至ったと言います。大学発ベンチャーの中には、大学の教授が兼業のままCEOに就任する例もありますが、ここには大きなマイナス点があります。その大きな要因の一つは、実現に至るスピードです。このスピードを出すためには、とても兼業などで勤まるはずもなく、その人の時間のすべてをなげうって打ち込まなければ成功確率は低くなることになります。吉井先生は、理路整然ながら熱く、イノベーションの重要性について説明されました。また、その際のプレゼンテーション資料の美しさ、考え抜かれたプレゼンテーションは、非常に印象に残るものがありました。

 この充実した講義について、それを受け止める受講生側が、それを即座に理解して、十分な質疑を行えなかったように見えたことは、受講した人間とし て、非常に残念な点です。質疑応答の場で自己表現することにはリスクはありません。むしろ恥をかいたりすることも経験で自己の可能性を広げることと私は考 えます。そうした前向きな姿勢、それこそ今回吉井先生が伝えたかったことではないだろうかと感じる講義でした。

レポート: 児玉 耕太(本科生)