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【2021年度CoSTEP修了式】和菓子を通じて気象気候を自分ごとにする『和菓子模様』

2022.3.12

『和菓子模様』は、「和菓子好き×気象予報士」である筆者が「和菓子×空模様」をテーマに情報発信するために開設したInstagramです。

画面をクリックするとInstagramに移動します

気象・気候の影響を大きく受ける植物を素材として四季の移ろいを映す和菓子を楽しみながら、気象・気候を身近に感じ興味関心を持ってもらうことを目指しています。

ここでは、企画の背景から現在のコンテンツ構成・運営方針に至ったプロセスを、現時点での成果や課題などとともに紹介し、今後の展望について模索します。

背景・活動の目的

近年、大雨・洪水・暴風などによる気象災害が多発しています。
私自身、台風直撃で住まいが大規模半壊となる被害にあったことも。
しかし、事前の気象情報から起こりうる状況を想像し、早めに自主避難していたため身体は無傷ですみました。
折しもその日は誕生日で、ずいぶん壮大なプレゼントだなと感じながら、この経験は後の気象予報士資格取得のきっかけとなりました。

気象・気候の知識や情報は、事前に予測できる気象災害から自分や大切な人を守ることにつながります。また、地球温暖化など気候危機の課題について考えていく上でも役立ちます。

相手(気象・気候)のことをよく知って想像力を働かせる(⇒仲良くなる)ことで、良い面とも悪い面ともうまくお付き合いできるようになる…そんなお手伝いができればと思っています。

『和菓子模様』に至るまで

〇気象・気候に興味を持ってもらうためにはどうしたらいい?

「桜の和菓子がお店に並び始めたらもうすぐ春」、「新栗の和菓子販売開始のお知らせが届けば実りの秋も近い」など、私は日頃から大好きな和菓子を味わう中で季節の移り変わりを感じています。
和菓子は、気候の語源ともいわれる二十四節気・七十二候との関連が深く、季節ごとの景色や現象、行事などを映す鏡です。
そして、和菓子の主な原材料は植物であり、その素材が収穫される時期や量は気象・気候の影響を大きく受けて変動します。
これらのことから、和菓子を一緒に楽しむことを通じて、気象・気候に親しみを持ってもらえたらと考えました。

〇具体的に何をしたらいい?

当初、和菓子業界の方に和菓子と気象・気候との関係についてインタビューしてみたいと考えていましたが、コロナの影響でなかなか実現できずにいました。コロナ禍でもできることを探る日々の末、まずは、すでにFacebookで展開している日々の和菓子愛記録「きょうのあんこ」シリーズに気象・気候の要素を加えて発展させてみようと思いました。

Facebookの「きょうのあんこ」シリーズ。 2月22日は猫の日にちなんだ和菓子をアップしていました。

〇どのメディアで発信したらいい?

Facebookとは違うものにチャレンジしてみたいと思ったものの、まずはどんなものがあるかを調べるところからスタート。

note?
 → 隙間の多い文章、カジュアル。
   画像・映像・音声など幅広いコンテンツが掲載可能。
Twitter?
 → リアルタイム性、拡散力が強い。
   情報の入れ替わりが早い。
Instagram?
 → 若い世代が使用。
   投稿に画像もしくは動画が必須。
Vimeo?
 → 動画プラットフォーム。
   アーティストやクリエイターなどの高品質な投稿が多い。
Voicy?
 → 音声プラットフォーム。
   敢えてビジュアルを抜き想像しながら聞いてもらう。

それぞれのメディアの特徴や傾向などを分析しているうちに、私がこの企画でターゲットとしたい若い世代のユーザーが多く、投稿画像がストックされ季節の移ろいを一覧することができるInstagramに最も親和性を感じました。

さてさて、はじめてのInstagram…
「えいやっ」とチャレンジしてみたら…
カルチャーショック!

・Instagramってスマホから投稿するんですね💦
 若い世代はスマホで投稿、閲覧が主流なんだ…

・文章のことをキャプションって言うんですね💦
 あくまで、メインなのは写真ってことなんだ…

・キャプションにはリンクを貼れないんですね💦
 外部誘導ではなく、自分の言葉で発信なんだ…

まだまだ奮闘はつづく―

『和菓子模様』の構成、運営上の方針

 

『和菓子模様』のInstagramはこちら

『和菓子模様』@wagashimoyouは、2021年10月に開設しました。
和菓子の写真と、折々の空模様や花などの写真を交互に投稿することで、季節の移ろいをより身近に感じられるような構成にしています。
二十四節気・七十二候をはじめ、ニュースで見聞きする花の開花など季節の便りや風物詩、気象現象、気候変動・気候危機などの話題について、和菓子を食べながら気軽に読んでもらえるような親しみやすい形で共有するよう心がけています。

うめの開花発表の基準となる標本木と、うめとうぐいすを描いた『春告鳥』という和菓子を並べ、気象庁が行っている生物季節観測について投稿した例。生物季節観測の結果は、季節の移り変わりや地域ごとの気候の違い、長期的な気候の変動などを把握するための貴重なデータです。
菜の花が咲く春の情景をあらわした『菜種きんとん』という和菓子と、青空の下で陽射しを浴びて元気に咲く菜の花を投稿しながら、この時期(立春から春分までの間)に吹く南寄りの強風「春一番」についての話題を共有。のどかな印象の言葉ですが、「春一番」が吹くのは低気圧が発達しているときなので、暴風、高波、雪崩などの災害に注意が必要です。

現時点での気付きや成果・課題など

気象・気候を身近に感じ興味関心を持ってもらいたいとの想いから、「日常」に寄り添うコミュニケーションを目指して『和菓子模様』をはじめてみたところですが、実際に運営していく中で、「日常」そのものも、私と他の方では大きく異なることに改めて気付きました。

『和菓子模様』をご覧になった方から、素敵な和菓子や空模様のほか、気象・気候に関する最新ニュースも紹介していただく機会があり、いつのまにか気象・気候に関するアンテナが伸びて、日頃から関連情報をキャッチしやすくなってくださったのだと感じてうれしくなりました。

現在は私が住んでいる関東の気象・気候を中心とした話題の共有となっておりますが、徐々に地域特性の違いまでフォローしていけたらと考えています。

より多くの方々へ発信するため、現在の『和菓子模様』への定期的なアップをベースに継続しつつ、それだけに終わってしまわないよう新たな企画も検討していく必要があります。

今後の展望

気象災害や気候危機などについては、どんな方でも耳にする機会はあるかと思います。ただ「大変そうだ」と遠くの「他人ごと」として聞き流しているのと、「大変なんだ」と身近な「自分ごと」として捉えるのとでは行動に大きな違いが生じてくるものだと感じています。

気象・気候の正しい情報を得て状況を想像し、的確に行動してもらうためには、「非日常」を想定して危機感を高める直球リスクコミュニケーションもひとつの手法だと思います。
一方、遠回りかもしれませんが、『和菓子模様』のように和やかな「日常」のコミュニケーションを通じて、自分が生きる自然・環境に「自分ごと」として目を向けていくことでも、気象・気候に関するリテラシーを養い想像力を豊かにしていくことができるのではと考えています。

今後は、『和菓子模様』で二十四節気・七十二候を一周しながら、和菓子関係者、気象関係者にインタビューしたり、和菓子の素材の聖地をレポートしたりと、活動の幅を広げていきたいと思います。
北海道大学で収穫される素材で、新しいストーリーをまとった和菓子をつくってみたいという野望も胸に抱きつつ…

 

最後に、指導教官の朴炫貞先生、CoSTEP講師・スタッフのみなさま、17期同期のみなさま、『和菓子模様』をご覧いただいているみなさまに心から感謝申し上げます。

 

福田佳緒里(研修科)
公務員/和菓子ソムリエ、気象予報士、防災士、健康気象アドバイザー