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モジュール6-2「SF思考と科学技術コミュニケーション~SFプロトタイピング現在と未来~」(11/26) 宮本道人先生藤本敦也先生講義レポート

2023.1.25

執筆者:江口佳穂(2022年度ライティング実習/学生)

モジュール6「社会における実践」では社会の中で科学技術コミュニケーションの領域を意欲的に開拓されている方々を招き、これまで歩んでこられたキャリア、活動の背景、現状、課題、原動力、将来の目標などについてお話を伺うことによって、自らのコミュニケーターとしての将来展望を描きます。

第2回目は科学文化作家の宮本道人先生と三菱総合研究所 シニアプロデューサー藤本敦也先生のお二人にご登壇いただきました。主に前半は宮本先生パート、後半は藤本先生パートに分かれています。

前半を担当される宮本先生はSFプロトタイピングを推し進める第一人者です。科学文化作家のほかに応用文学者・SFコンサルタントというどれも耳慣れない肩書をお持ちです。これについて宮本先生は「サイエンスコミュニケーターやサイエンスライターとして活動していくのなら目立つために固有の肩書をもつといい」とのこと。宮本先生自身かつてサイエンスライターに憧れる立場だったそうで、経験則からくるアドバイスだとか。今回の講義はSFプロトタイピングに関する内容ですが、お二人ともたびたびサイエンスコミュニケーターやサイエンスライターとして食べていきたい人に向けたアドバイスに触れていたのが印象的でした。

SFプロトタイピングとは20~30年後の未来を考えるSF的発想をもとに物語を描き、企業の新規事業の創出などの新しいアイデアに生かし議論をする手法です。

SFは子ども向けだと思われることもありますが、今の社会はSFの影響を大きく受けています。例えば「メタバース」という言葉は元々「スノウ・クラッシュ」という作品に登場する架空のサービスの名前でした。このようにSF作品の用語は現実世界で書き換えてしまうこともあります。また、ビジネスの第一人者にはSFに強く影響をうけている人が多く、SFらしいものに注目する投資家も増えていることからSFが現代社会に大きな影響を与えています。SFを考えることは未来を考えなければならない時代において、人より一歩先を行ける可能性を生むのです。

その一方でSFになじみがない層はそうした社会の波においていかれるため、SF格差とも呼べる状況が生まれつつあります。未来志向が社会を席巻することは未来を考えていない・考えられない人からの搾取になるのではないかという考え方です。未来や夢を考えろという圧が人を苦めることもあるでしょう。

ただしSF思考はあくまで未来予測とは異なります。SF思考とは「フィクションの力を借りて斜め上の試作品をつくるクリエイティブな思考」。ポイントは一つの確たる夢ではなく可能性として考えること、つまり未來をあくまでフィクションとして考えることです。SFは予想外の未来社会を想像し、その課題、解決方法の順に作られていきます。あくまで予想外の未来社会を想像することで、固定観念がつくる未来、一度決めて変えにくい未来、一部の人間が決めた未來を打ち破ることができるのです。

また、宮本先生と藤本先生の作り上げたSF思考のメソッドでは、SFプロトタイピングには一般のひとから小説家、研究者など様々な立場の人々が参加します。SFプロトタイピングを提唱したブライアン・デビット・ジョンソンも異なる立場の人々の対話を重視していました。未来像を集団で議論することによってお互いのビジョンの共通点や相違点を明らかにすることができるためです。また、この時新たな可能性をつぶさないためにフィクションのキャラクター目線で議論を行うことがポイントだそうです。

加えてお二人の作り上げたメソッドで注目すべき点は、SFバックキャスティングを重要視している点です。SFバックキャスティングは作成されたSFの公開やその後の議論などの過程を指します。SF思考ではSFプロトタイピングのあとSFバックキャスティングを繰り返すことで、洗練された現実的でなおかつ幅広さを保たれるのです。

こうしたSF思考は企業の長期的視野を考える手段として用いられています。先の読めない時代では企業の存在意義を問われるためです。後半の藤本先生がそこについて詳しく説明してくれました。

講義後半を担当する藤本先生は三菱総合研究所経営イノベーション本部に務めながら社会の中でSFプロトタイピングを実践している一人です。藤本先生には具体的なSFプロトタイピングの方法、事例とビジネスの現場でワークショップを行うときに気をつけている点についてお話いただきました。

SF思考は未來における自分たちのイメージを考えるときや時代の変化をつくる事業・サービスを作るとき、次世代とのコミュニケーションやアイデアを引き出したいとき、街づくりの方向性を決めるときなど様々な場面で活用されています。今回は企業で用いられる時を主な事例として講義が進みます。

通常、企業が長期的視野を考えるために未来を構想すると、抽象的な構想しかできなかったり、未來感がでなかったりすることが多いそうです。しかし、そのような構想では実現への意欲がわかないままフェードアウトしてしまいやすくなります。そこで藤本先生はSFの思考法を活用することに行きついたそうです。

宮本先生と藤本先生が実際に開催しているSF思考ワークショップでは、多様性のあるチームでSF小説を協創し20年後以降の未来像を作ることを目的としています。ここで大切なのが、多様性のあるチーム、そして20年後~未来を想定することです。想定する時期が5年後などの近い将来だと現実的な思考から抜け出せないことが多いそうで20年後以降という設定は自由度を高めるためのものだそうです。講義前半でも言われていましたが、SF小説の作成は未来を考えるきっかけを作る手段であり、作る過程や作った後のコミュニケーションを経て課題を最後まで解決することが重要だと強調されていました。

最後に藤本先生から、今までCoSTEPで学んできたことを社会で応用するうえで大事なことはなにかという質問が投げかけられました。藤本先生の答えは以下の三つ。妄想を起点にしてでも相手のニーズを把握すること、持続性のためフィーをとるスタンスで挑むこと、数をこなし深化すること、でした。始めの宮本先生のアドバイスと対になるように藤本先生の、仕事を自分のものにするためのアドバイスで講義は終了となりました。

受講生からの質問を受ける宮本先生と藤本先生

今回の講義では、SFプロトタイピングとは未來に対するオーナーシップをもつための手段であることをお二人が非常に念頭に置かれていると感じました。講義内でSF思考が用いられる主な場面として想定されていたのはビジネスの現場でしたが、就活など自己実現にも使えるとのことで自分も手段として取り組んでみたいと思いました。宮本道人先生、藤本敦也先生ありがとうございました。