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光るクラゲノーベル賞をとった理由

2010.6.29

著者:橋口太志 監修, 生化学若い研究者の会 著 著

出版社:20090400

刊行年月:2009年4月

定価:1700円


 私が初めて参加した生命科学分野の学会で、緑や青など色とりどりの細胞の映像を見て、感動したことを覚えている。そのことが蛍光タンパクに興味をもつきっかけになった。最近は、テレビの科学番組でも緑色に光った細胞の映像をよく見かけるようになった。

 

 

 このような細胞が緑色に光っているのは、オワンクラゲから得られた緑色の蛍光を発するタンパク質GFP (Green fluorescent protein) が細胞に存在しているからだ。このGFPの研究で2008年に下村博士がノーベル化学賞を受賞していたことで覚えている人もいるだろう。

 

 

 なぜ、オワンクラゲから得られたGFPの研究でノーベル化学賞を受賞することができたのか。その理由をわかりやすく解説しているのが本書である。本書は、GFPを実験に使用している大学院生が執筆しており、生命科学に詳しくない人でも理解できるように書かれている。また、かわいらしいイラストも多数ついており内容を理解するのを助けている。

 

 

 オワンクラゲをはじめ、チョウチンアンコウやホタルなどの光る生き物を紹介している第1部、ノーベル化学賞の受賞理由であるGFPの発見と改良について説明している第2部、GFPの応用例を紹介している第3部から本書は構成されている。  GFPは、238個のアミノ酸からなるタンパク質で、その中のセリン、チロシン、グリシン残基の側鎖が自然に酸化され緑色の蛍光団を形成しているため、ある波長の光が当たると、緑色の蛍光を発するのだ。下村博士は、85万匹という大量のオワンクラゲを集め、GFPを発見した。博士が大量のクラゲをどのようにして集め、どのようにしてGFPを精製したのか、という話がわかりやすくかかれている。

 

 

 GFPが生命科学の研究で活躍するようになったのは、「見たいものだけを見る」ということを可能にしたからだ。特定のタンパク質や細胞にGFPで目印をつけることで、その挙動を注目することができるようになった。しかも、それは細胞を殺さず生きたまま観察できる。例えば、遺伝子組み換え技術で GFPをガン細胞に組み込むと、生きた動物の体内でのガン細胞の挙動を調べることができる。GFPが存在する細胞では、ひとつずつ光を発する。そのため、たった一つのガン細胞の動きを追跡することができ、ガン細胞の転移のメカニズムを解明するのに役立っている。

 

 

 本書のエピローグとしてGFP研究の第一人者である宮脇博士のインタビューが記載されている。サンゴやクラゲから分離した蛍光タンパク質を改良し、カエデ、ドロンパ、ヴィーナスと名付けられた宮脇博士が開発したユニークな蛍光タンパク質が紹介されており、興味深い内容になっている。著書らは GFPのことを「生命科学を導く星」と表現している。GFPは基礎から応用まで研究現場の最先端で活躍しており、生命科学分野の発展に多大な貢献をしている。

 

 

 私の所属する研究室でも、GFPを使用し研究に役立てている。この恩恵は下村博士を含む先人たちの苦労があったからこそであり、感謝が尽きない。これからも、GFPは「生命科学を導く星」として輝き続けるだろう。

 

 

橋口太志(2009年度CoSTEP選科生,札幌市)