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植物の生存戦略

2010.6.29

著者:「植物の軸と情報」 特定領域研究班編 著

出版社:20070500

刊行年月:2007年5月

定価:1200円


senryaku.jpg 植物の生存戦略 「植物の軸と情報」 特定領域研究班編 朝日新聞出版 2007年5月刊 1200円

 

 季節ごとに花を咲かせては散らせ、葉を落とす植物は「儚さ」を持つ一方で、したたかでしなやかな「強さ」を持っていることを、私たちは知っています。種から芽が出てすくすく育っていく植物の姿に、私たちはなぜか魅せられます。その「強さ」は、一体どんなしくみから生まれてくるのでしょうか。

 

 

 本書ではそれぞれ独自の観点や手法で植物を研究している10人の科学者たちが、それぞれの研究を語ります。研究対象はみな違いますが、「植物のかたちがどのような遺伝子のはたらきで作られるのか」を明らかにするという目標は共通しています。また、彼らが自分の研究テーマといかに出会い、どんな困難に出会いながら研究を進めてきたのかも、興味深いところです。研究者が驚きを持って発見を受け止め、好奇心と誇りをもって研究に取り組んでいる姿が、生き生きと浮かび上がってきます。

 

 

 近年の遺伝子研究の進展は目覚しく、様々な分野で発見がなされていますが、植物の分野も例外ではありません。植物のかたち作りのしくみが遺伝子を足がかりにして解明されつつあり、しかもそれが驚くほど精緻で周到であることが、本書には記されています。そしてそのしくみこそが、植物の「強さ」を支えているということを実感できます。なぜなら、動けない植物にとってはかたちを作ることこそが、環境に適応して生きていく最大の手段であるからです。

 

 

 さらに、これらのような遺伝子を足がかりにした研究には、解読した遺伝子の配列を他の生物と比べることができるというおもしろさもあります。同じはたらきをする遺伝子同士を比較すると、思いも寄らない生物同士が同じ遺伝子を持っていたり、逆に似ている生物同士が違う遺伝子に制御されていたりします。そういった情報を集めることは、それぞれの生物がどのような進化を経てきたのかを解明できる手がかりになります。植物の、かたちを確実に作るための複雑に組み合わされたしくみは、地球の長い歴史の中で生き延びてきた証なのです。

 

 

 同じ地球で生き延びてきた仲間である私たち人間にも、「強さ」はあります。しかし植物の持つ「強さ」は、私たち人間とは違うしくみである事が、科学的に解明され始めました。種が落ちた所がどんな場所であろうと芽を出し,光のある方へ葉を広げる植物は、静かに置かれた環境を受け入れているだけのように見えて,実は「かたち作り」という武器を手に,必死で戦っていたのです。私たち人間は、自分とは違う植物の「強さ」に憧れ続けてきたのかもしれません。

 

 

 本書を読んだ後、あなたの身近な植物をもう一度じっくり見てみて下さい。長い年月に培われたしくみによって、今かたち作られている、そしてこれからも作られ続けていくであろう植物の機能的な美しさに、きっと感動できます。

 

清水華子(2009年度CoSTEP選科生,滋賀県)