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地球(ほし)授業

2010.6.29

著者:ユベール・リーヴズ 著

出版社:20090800

刊行年月:2009年8月

定価:1680円


 本書は、フランスの著名な宇宙物理学者ユベール・リーヴズが、ラジオ番組で話した内容を自ら文章にまとめたものです。環境破壊、種の絶滅、エネルギー、生態系などについての51話が綴られています。太陽系や銀河から、地球上の生命へ、人間の生活や政治問題へと自在に視点を動かしながら、人類が直面している危機について、深く、鋭く、でも静かに、切り込んでいきます。

 

 

 たとえば、こんなぐあいに。

 

 

 著者は「金星は一種の警告なのだ」と言います。金星と地球は双子の惑星と言われ、とくに炭素の含有量が似ているけれど、金星の地表は480℃にも達します。炭素が二酸化炭素の形で存在するため、とてつもない温室効果が生じているからです。では、もしも地球のすべての炭素が、二酸化炭素となってしまったなら・・・。

 

 

 核エネルギーの利用について、多くの人は不安をもちます。しかし、どこが不安なのかと問われると、それはとても感覚的なもので、言葉にしにくい。でも著者は、はっきり言います。半減期が千年近くにも及ぶ核廃棄物を相当の期間、安全に保管することは、管理というやっかいな仕事を子孫に押しつけることになるからだと。言われてみればその通り。これほど長期にわたって政治や経済の安定が保証されている国など、どこにもないのですから。

 

 

 本書は地球環境の問題点を指摘するだけのものではありません。その解決のために、人間が行ってきた取り組みについて知ることも重要だと言います。そして酸性雨については、科学者と政府と産業界の三者が一致協力して問題に取り組み、良好な結果を導くことができたことを、オゾンについては、フロンガスの生産が禁止されたものの、オゾンホールの状況は依然として不安定であることを記しています。また環境対策への取り組みは、各国の事情がさまざまで問題は依然として残っているが、それでもどんな小さな一歩でも価値があるのだと言います。

 

 

 終盤に入り著者は、「人類は人間らしくなっているのか」と自問します。そして、科学技術面だけでなく道徳面でも人間は進歩してきた、ということを証明するために歴史をさかのぼります。奴隷制度が廃止され、戦争は国際的非難の的となるようになった。被災国へは世界中から善意が寄せられ、動物の権利についても世界宣言が採択された。このように人間同士のかかわりや動物に対する感じ方、つまり感受性も進化してきたことを検証していきます。

 

 

 終章で、人間の感受性の進化にこそ希望の光を見出すことができる、と著者は主張します。人類が地球で生き続けるとは、どういうことなのか、地球にとって人間はどんな存在なのか、いま考えるべき分かれ道にさしかかっている。こう説く著者の、あふれる想い、込められた願いは圧巻です。

 

 

 訳者あとがきも魅力のひとつです。本書の翻訳はとても優れているだけに、訳者高橋啓がどのような気持ちで翻訳に臨んだのか、とても知りたくなるでしょう。そんな読者の気持ちに応えてくれるのです。もちろん、著者についても詳しく知ることができます。

 

 

 タイトル「地球(ほし)の授業」は訳者によってつけられたもので、原題は「空と命のコラム」です。著者の暖かいまなざしと卓越した見識に触れるうち、いつのまにか教室で、先生の言葉に耳を傾けている。そんな気持ちになります。本書はわかりやすい言葉で書かれた一般向けの本です。ぜひ多くの人に読んでもらいたいと願っています。

 

 

柳田美智子(2009年度CoSTEP選科生,奈良県)