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枝廣淳子の回収ルートをたどる

2010.6.29

著者:枝廣淳子 著

出版社:20061100

刊行年月:2006年11月

定価:1680円


本書では、携帯電話や自転車など16の品目に関して、回収されリサイクルされるまでを詳しく紹介している。

 

 

例えば毛糸のセーターが毛布にリサイクルされるまでを追ってみると、まずリサイクル工場の機械で切り刻まれ、繊維となり、ふわふわの毛布になる。まるで工場見学で商品ができるまでを眺めているようで、読んでいて飽きることがない。とはいえ、読み進めるうちに、この楽しい「回収ルート見学」の裏には問題が山積みであることに気付かされる。 例えば古着の回収工場。中古衣料用にベビー服、子供服、夏物など細かく仕分けされている。感心している著者に向かって、回収業者は「冬物はあまり売れない」という悩みを打ち明ける。 なぜか。冬物衣料はロシア人には重宝されるが、サイズが合わない。一方、体型の似ている東南アジアの人たちには夏物衣料のニーズが高い。しかも、綺麗な外出着よりも、下着などの基本的な衣料の方が求められているという。日本人には、古びた自分の下着を回収に出すという発想はあまりないし、実際そのようなことをしている人はいるだろうか。需要があると知れば回収に出すかもしれないが、このような情報は実際に現場に足を運ばない限り、一般の人にはなかなか伝わらないだろう。「人に聞いたから」「本で読んだから」という知識だけでは本当のことはわからない。回収に出しさえすれば万事うまくいくと考えてリサイクルに協力していたものの、それは自己満足なのかもしれない。

 

 

本書を読むと、次々とこのような事例にぶち当たる。 環境に関する法律についても、著者は疑問を投げかける。例えばペットボトルは、容器包装リサイクル法で再資源化が義務付けられ、税金で回収する仕組みができた。だがその分、ペットボトルの再利用のコスト削減につながり、メーカーはビンよりもペットボトルを多く使用するようになったという。一方、ビンは、これまで税金など使わなくてもデポジット制度で回収できていた上、洗えば20回は使えるとてもエコな容器。大量のエネルギーを使って原料に戻しリサイクルしなくてはならないペットボトルよりも、洗えばそのまま使い回せるビンの方が、実は環境に掛かる負荷は小さいのだ。

 

 

このように本書を読むと、環境にやさしいと思って協力していたエコ活動が実はそうではなく自己満足だったかもしれないことに気付かされるし、法律によって規制されたがためにかえって環境に良くない問題が生じうることがわかる。 では、どうしたら良いのか。それに対する明確な答えは本書には載っていない。しかし、答えにたどり着くためのヒントは数多く載せられている。生ゴミといえば堆肥へのリサイクルばかり注目されるが、本書で取材した現場では、発酵させてメタンガスや電気を取り出している例が紹介されている。古着であれば、ウエスの他にも毛布に加工している例もある。リサイクルには正解がないのだ。既存のリサイクル技術や法律に頼るのではなく、それぞれが自分の頭で考え、それぞれの立場でできることを実行することが環境問題の解決につながるのではないだろうか。だからと言って、いきなりリサイクルの現場に足を運ぶことも難しい。まず手始めに、社会科見学に行った気分で本書をめくってみてはいかがだろうか。

 

 

佐藤洋子(2009年度CoSTEP選科生,川崎市)