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地震予知の科学

2010.6.29

著者:日本地震学会・地震予知検討委員会 編 著

出版社:20070500

刊行年月:2007年5月

定価:2100円


「今、われわれは意外とすごいことを知っているんですよ。」地震学者たちはこうアピールする。

 

 

すごいことは二つある。長期的な予知は現在でもできていること、そして、プレートの境界で起きる巨大地震については、もう少し短期的に,しかも精度よく予知できる可能性が見えてきたことである。 こんなことを言われても、現実には地震学者たちが予想していなかった場所で大地震が起きている。彼らに不信感を持つ人も多いだろう。今さら地震予知なんて、イカサマだと思う人もいるだろう。しかしそれは、地震学者と市民の間で、地震予知に対する考え方にギャップがあるからだ。

 

 

本書には、その溝を埋めたいと切に願う地震学者たちの想いがぎっしり詰まっている。 例えば、時間スケールに対するイメージにギャップがある。多くの市民は自分の住んでいる町に大地震が来るのが、明日なのか、それとも半年後なのか、という時間スケールで知りたいと思う。一方で、地震学者たちは三つの時間スケールで地震予知を考えている。具体的には、数百年〜数十年単位で考える長期予知、数十年〜数ヶ月単位の中期予知、数ヶ月〜数時間単位の直前予知である。 長期予知は現在でも十分にできるという。これは地震学者たちが、古文書や、遺跡、堆積物、地形など、様々なものに残された地震の痕跡を調べ、いつ、どこで、どれくらいの大きさの地震が何年おきに発生していたのかを明らかにしてきたおかげである。これら過去に起きた地震の発生パターンから、将来に地震が発生する時期をおおまかに予測することができるのだ。2003年十勝沖地震は、このようにして予想された場所、規模で実際に地震が起きた例だという。 しかし、長期予知は発生時期の誤差が数百年〜数十年と大きい。また、地震の履歴をもとに経験則のみで予測するものであり、原因に基づいた予知ではない。そのため、先の誤差を小さくすることが難しい。

 

 

これらの問題を解決するべく、地震学者たちはここ十年間、中期予知にむけて様々な準備をしてきた。中期予知とは、地震を起こす原因をもとに発生時期を予測するものである。まず、地震計やGPSの観測網を整備し、地震の原因となる地下のひずみを観測できるようにした。おかげで、地下のプレートの境界にある断層がどのように動いているのかが見えるようになった。さらに、実験から得られた方程式をもとに、コンピュータの中で地震を起こすシミュレーションができるようになった。現在では、プレートの境界で過去に起きた巨大地震のくり返しが再現できるまでになったという。

 

 

このように、地震発生の原因となる現象が次々と解明されつつあり、発生時期の誤差を縮められる兆しがようやく見えはじめてきた。 中期予知や直前予知が実現するには、まだもうしばらく時間がかかるようだ。観測技術の進歩、シミュレーションに用いる方程式の改良、正確な地震の前兆現象を捉えることなど、まだまだ研究を続けていかなければならない。 「だからこそ」と地震学者たちはいう。地震の被害を減らすためには、市民の協力が必要だと。予知の実現だけに頼らず、日頃から市民全員が防災への関心を強く持つこと、そして地震学者と市民が予知の精度について共通の理解を持てるようになることが重要だという。 地震学者たちと私たちのギャップを埋めるために、彼らの言葉にぜひ耳を傾けてほしい。

 

 

小澤佳奈(2007年度CoSTEP選科生,つくば市)