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「ヒト胚を操作する医療を考える」(10/28)石井哲也先生の講義レポート

2017.12.2

梅本里穂(2017年度 選科A / 学生)

 今回は、石井哲也先生(北海道大学安全衛生本部 教授)の講義でした。京都大学iPS細胞研究所で最先端の研究にも携わられていた経験もお持ちの石井先生から、非常に重要なトランスサイエンス問題の一つである「生殖医療」について、お話し頂きました。

生殖医療がトランスサイエンスである理由

生殖医療は、社会とは切り離せないとても複雑な医療です。なぜならば、生殖とは、家族形成であり、生殖を制御する医療は、社会的ニーズに応えるとともに、産まれてきた子を含む取り巻く人の苦痛や苦悩、また、社会の変質など様々な問題が生じる可能性があるためです。

日本では、従来、遺伝学的な親が法的な親であり、すなわち育ての親であるという認識が一般的でした。しかし、生殖医療は、第三者から配偶子を提供による子の誕生など、従来の認識を越えることが可能です。従来の認識を変えないか、それとも変えても良いのかの議論をもたらすことも科学技術コミュニケーションの1つだと考えます。また、忘れてはならないのが生殖医療によって産まれた子の人権です。子の出自を知る権利についても議論されるべきです。

生殖医療の背景

生殖医療を知るために、まずは胎児の形成について説明がありました。女性は月に1つ程度の卵子を排卵し、精子があれば受精し、受精卵となります。受精卵は細胞分裂を繰り返し、着床します。そこから胎児の形成が始まります。また、卵子や精子が生じる過程には減数分裂による配偶子形成がるため、遺伝的多様性が生じます。この過程では、染色体異常や遺伝子変異が偶発的に起こる可能性もあります。

生殖はカップル間で行うか行わないかを選択できます。「子がほしい」と選択し、卵子、精子また、生殖器に異常がある等で生殖が叶わない場合の選択肢として生殖医療を受けることと養子縁組の検討が上がります。日本は前者の実施が多い現状です。

生殖医療のリスクと説明

生殖医療には、卵子の過排卵を誘導する女性への薬剤投与、精子を採取するため手術を行う場合もあるため、体に負担がかかるリスクがあります。生殖医療を実施する医療機関ではこれらの説明を同意書に含ませています。しかし、産まれてくる可能性がある子へも低体重等のリスクがあるのですが、この説明の実施は少ない印象だということでした。

日本の生殖医療の特殊さ

日本では、生殖医療における指針はありますが、第三者からの配偶子提供を禁止する等、法規制はありません。つまり、国としてのルールが決まっていない状況です。これは、先進国の中では珍しい立ち位置です。

報道のケーススタディ

講義の最終パートでは、1つのニュースを4つの記事を読み比べて、もし自分が生殖医療について報道する立場だったらどのような記事を作成するべきかを考えました。記事への情報の選択の違いで、読者に生殖医療について与える印象が異なることを実感しました。

講義を受けて、生殖医療技術は発達していても、どう社会で取り入れるかの議論はまだ深まっていないことを認識しました。石井先生、ありがとうございました。