岩澤 大地(2018年度 本科/学生)
2019年2月17日(日) に開催した「THE RULE 〜生態系をつくる編〜」の開催レポート【ワークショップ編】に続いて、今回は【ゲーム作成編】と題し「“THE RULE”はどのように誕生したのか」、「“THE RULE”とはどのようなゲームなのか」をレポートします。
完成までの道1:科学を伝える新たな手法を考える
専門家と非専門家をつなぎ、科学を伝える新しい手法を生み出す……。それを目標に対話の場の創造実習の受講生、チーム名「THE GAME」(岩澤、大澤、熊谷、吉本、米田)は、様々な話し合いを行いました。脱出ゲーム形式やワークショップ形式など、多様な意見が飛び交いましたが、それぞれに共通していたことは、なにかを「体験」してもらいたいという点でした。ただ単に話を聞くだけではなく、実際に頭や体を動かして体験してもらえるような手法を生み出したい。議論を進めていく中で、体験し楽しみながら科学について考えることができる「ゲーム」を開発しよう、となりました。
(リアル脱出ゲーム体験も。まずは自分たちが体験することが大切)
完成までの道2:ブロックを使ったゲームを試作する
とは言え、メンバーは皆ゲーム作りに関しては素人です。0からのゲーム開発はそう簡単にはいかず、始めは全く方針がたちませんでした。カードゲームやボードゲームなど様々な種類の既存のゲームを体験し、アイデアを出して試作して……。そんなことを繰り返す中で「ブロックを使う陣取りゲーム」という方向性に何とか落ち着き始めます。ブロックを使用することになったのは、「一回で終わらない」そして「ブロックを持っていれば誰でもできる」ゲームを目指したからです。しかし、細かいルールを「面白いゲームで、かつゲーム性が破綻していない」ように作ることは至難の業でした。さらに今回はそこに、「科学技術コミュニケーション」という軸も入っていたことで、難易度ははるかに上がっていたように感じています。「ゲームとしての矛盾の無さ」「面白さ」そして「サイエンスとしての正確さを落とし込める余地」。それらの全てを含めたルール作りに、私たちの試行は完全に生き詰まりを見せていました。
皆でウンウン唸っていたそんな状況を打破したのが、「ルールを参加者に作ってもらおう!」という、メンバーの1人、大澤の一言。これをきっかけに、私たちがゲーム性だけを考えて作った基本的なルールに、プレイヤーがサイエンスの要素を「新たなルール」という形に落とし込んで追加していく、“THE RULE”の原型が完成しました。
(初期バージョン。ブロックを順に置き、上から見た時に一番多い色のプレイヤーが勝利。各色間の強弱関係がある)
完成までの道3:「生態系のモデリング」をテーマにする
科学者が用いるモデリングという手法。それは、複雑な現象から要素を抽出し、その現象を簡略化して再現することです。そうすることで、複雑な現象をよりシンプルに捉えることができるようになります。
今回のワークショップでは、北海道の生き物の特徴を抽出して、その特徴を再現するように基本のルールを変え、付け加えていくことで「生態系のモデリング」を体験してもらおうと考えました。
それぞれの生き物がどのような特徴を持っているのか、それをルールに変えるにはどのような「ルールの決め方のルール」が必要となるのか。また、モデリングや生態系に関するサイエンスの「正しさ」と、“THE RULE”のゲームとしての「面白さ」を両立させるにはどうすればいいのか。幾度となく思考と試行を重ね、“THE RULE”のルールが固まっていきました。
(生態系を模すために、各色に生き物としての属性を加えることにした。CoSTEP受講生や教員陣に試行してもらい、多くの助言をもらった)
完成までの道4:デザインする
“THE RULE”は今回のワークショップだけでなく、様々な場面で科学を伝える手法として広く活用してももらうために考え作り出されたゲームです。その為には、このゲームが誰かの目に止まり、プレイしてみたいと思ってもらう必要があります。惹き込まれるような魅力的なデザインがその重要な要素の1つであると考えた我々THE GAMEは、CoSTEPグラフィックデザイン実習と共に総力戦で、コンポーネント(ゲームに使用するボードやカードなどの道具)のデザインと作成に臨みました。グラフィックデザイン実習受講生の高桑さんに作成していただいたロゴやキャラクター、チラシのイメージを基に、ルールシートやゲーム中に使うカード、参加者に配布するルールブックなどを作成していきます。
例えば、ルール作りをわかりやすくする為の「イキモノパネル」。そのパネルに書かれている生き物の特徴を再現するようにルールカードを右側に配置していくことでスムーズなモデリング体験できるよう工夫をしました。当日の本番ぎりぎりまで、細かいところまで詰めに詰め、丁寧な仕上げをおこない、ようやく満足のいく“THE RULE”のコンポーネントが完成しました。
(カードやイキモノパネルを増産。デザインが仕上がったのがワークショップ二日前。前日に皆で印刷やカットを行った)
(ゲームを入れる箱も一から作成)
完成までの道5:そして“THE RULE”が出来上がる
紆余曲折を経て、作成したシートやパネルを手作りの箱に入れついに“THE RULE”は完成の時を迎えます。
最終的にこんなゲームに。
「“THE RULE”はブロックを使った陣取りゲームです。4人のプレイヤーが自分の色のブロックを置いていき、最終的に最も多く自分の色を広げることができたプレイヤーが勝利となります。「ベーシックなルールにプレイヤー自身がルールを創り変え、付け加えていく」という点が最大の特徴です。“THE RULE”では、ルール作りを通して科学の手法の一つである「複雑な自然を単純化したモデルを作ること=モデリング」を体験することができます。」
そして、プレイを彩るコンポーネントがこちら。
外箱
チラシのデザインを元に作成した“THE RULE”の顔とも言える外箱。THE GAMEのメンバーお気に入りの一品。
ルールシート
“THE RULE”のベーシックルールが一目でわかる優れもの。シンプルでわかりやすい説明を考えるのに苦労した。
各種ブロックとゲームボード
各色「2×2:5個、2×4:6個、2×6:1個」のブロックを使用。ゲームボードにはXブロック(茶色)とゴダンタワー。
プレイヤーはこのブロックを置きながら勝敗を競っていく。大きめのレゴデュプロを使用。
イキモノパネル
北海道の生き物が描かれたパネル。
プレイヤーはそれを見ながら、各生き物の特徴を再現できるようなルールカードを右側においていく。
イベントカードとルールカード
イベントカードはゲーム中に引く。様々な効果があり、プレイヤーにとってプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともある。ルールカードはブロックのルールを決めるときに使うカード。白紙のカードには自由にルールを書き込むことができる。
サイコロとカクホチップとペン
ゲーム中に使う小物たち。市販品のため特に愛着はない。 でも、ボードマスターSという名前は少し格好いい。
スコアシートとルールブック
スコアシートに、プレイの結果を記録する。マスコットキャラクター「ムアール=ゴリス」がワンポイントで効いている。ルールブックにはワークショップのねらいやルールが書かれている。ブロックを持っていれば家でもプレイ可能。参加者に配布された。
こうして、一つのゲームとして完成した“THE RULE”。果たして、ワークショップでお客さんに楽しく生態系のモデリングについて伝えることはできたのでしょうか(イベント当日の様子は、開催レポート【ワークショップ編】をご覧ください)。
今回「ゲーム」という手法を選んだのは、ワークショップという1回の機会だけで終わらず、広く色々な方に体験して欲しい、という野望からでした。皆さんに遊んでいただけるよう、次のステップに向けて準備を進めています。続報を楽しみにお待ちください!
対話の場の創造実習 THE GAME:岩澤 大地、大澤 康太郎、熊谷 まりな、吉本 拓郎、米田 鈴枝、古澤 輝由