実践+発信

科学技術コミュニケーター職場を訪ねて(NIMS、産総研)

2019.6.26

報告:14期本科・映像メディア実習 村田 祥子

2019年2月20日、科学広報のプロフェッショナルの現場を訪ねて、茨城県つくば市の物質・材料研究機構(NIMS)に足を運びました。取材に応じてくださったのは、広報室長の小林 隆司さんです。

NIMS広報室長 小林 隆司さん(左) と村田 祥子

小林さんは、NHK時代に「ためしてガッテン」など多くの科学番組に携わり、現在はNIMS研究成果の広報や、物質・材料科学の魅力を伝える仕事をされています。主な仕事内容は、プレスリリースをはじめ科学イベントの企画や、広報誌・Webページの編集、メールマガジンの配信など。研究成果や科学の面白さを伝える映像制作は、今も小林さん自身が中心となって行っています。NIMSのyoutubeチャンネルは登録者数が94,275人で(2019.6/25現在)、国立研究開発法人としては異例の人気チャンネルです。

研究機関で科学技術コミュニケーター職の新卒採用はあるか
NIMSで科学技術コミュニケーターとしての新卒採用があるか伺ったところ、どこの研究機関でも需要はあるものの、現状ではまだ新卒での受け入れは難しいとのことでした。

近年、国内の研究機関において、双方向的な対話を通した科学技術コミュニケーションが重要視されつつあるのは事実ですが、広報や科学技術コミュニケーションのプロはまだ少なく、新人を養成する体制も整っていないのが現状です。 

また、多くの研究機関では、正規職員の採用数に制限があります。そのため、広報の職員は、異動のある定年制事務職員、あるいは任期付きの契約職員として働くのが一般的です。NIMSでは異動のない定年制職員を広報の職員として採用していますが、それでも職員数が限定されてしまうため、実績のある経験者を雇用しているそうです。

コミュニケーターとして働くということ
小林さんたちが広報の現場で求める広報マンは、「伝える力」を持ったプロだと仰っていました。科学や研究内容の魅力を外部に発信するためには、興味のない人の目をひくための創意工夫をする必要があります。研究能力や科学の専門知識というよりは、伝えることに対していかに貪欲で、尚且つ「策士」でいられるかどうかが重要なのだそうです。

しかし、それは短期間で身につくものでも、自分の力だけで方向性を容易に見定められるものでもなく、どこかで鍛えなければそうしたスキルは向上しにくいものだとも仰っていました。番組制作や雑誌編集など、魅せ方に長けた職種を一度経験することも有効ですし、メディア以外の様々な職種でもトレーニングは可能だそうです。本人の努力次第ではありますが、伝え方の切磋琢磨が行われにくい研究機関の通常業務だけでスキルを向上させるのは難しいのかもしれません。

NIMSの代表的な研究成果について中道 康文さんから解説していただきました

「科学のワクワク感を直接伝えることができたり、日の目を見ていなかった研究が、広報活動を通じて注目されるようになったりすることで、研究者と喜びを分かち合えることがうれしいです」と、NIMS広報室で働くことの魅力を活き活きと教えてくださった、小林さん。小林さんたちの活躍によって、国内で科学技術コミュニケーターの意義が少しずつ認められ、認知度も高まっていることを実感できました。

~特別編~ 産総研見学
小林さんは、昨年から産業技術総合研究所(産総研、AIST)の広報も兼任されています。小林さんのご配慮で、産総研の中も特別に見せていただけることになりました。今回、案内していただいたのは、企画本部広報サービス室の鈴木康仁さんです。

産総研企画本部広報サービス室の鈴木 康仁さん

エネルギー、ロボットなど、幅広い研究分野を扱っている産総研では、総合職は数年で他の部署に移動することが多いそうです。今回、仕事現場だけでなく、産総研が所有している展示施設も案内していただくことができました。セラピーを目的に作られたアザラシ型ロボット「パロ」や、日本列島の立体模型に地質図や地形図などを映し出すことのできるプロジェクションマッピングなど、見どころ満載でした。

アザラシ型ロボット「パロ」

日本列島の地質や地形を映し出す立体模型

感想
最新研究の傍らでコミュニケーションを専門に活躍できる仕事というのは大変魅力的です。しかし、研究機関の広報職に新卒が専任で就くことはまだ難しいことを知りました。

とはいえ、今回のNIMSと産総研の訪問で、科学技術コミュニケーションそのものの魅力を再確認できました。またコミュニケーションを仕事として考えたときに、研究機関以外の可能性も新たに見つけることができたので視野が広がりました。

私はその後取材で学んだことを基に、「仕事でどのように科学技術に携わるか」を考え直したことで、ようやく希望する職業にたどり着くことができました。100%思い通りの仕事に就くことはできなくても、一度視点を変えてみることで、理想に近い職業にたくさん出会えるのではないかと思います。これから就職を考えているという方がもし読者にいらっしゃれば、自分が何をすることで社会実現できるのかをしっかり見定めて就職活動に取り組んでほしいと思います。

小林さん、鈴木さん、このたびは本当にありがとうございました!