昨年度から始まったこの授業は、今年度は4月20日~6月8日の水曜3限にオンラインで行なわれ、修士院生10名が受講しました。
この授業では、自分の行なっている研究の意義や魅力を、社会に対して視覚的にアピールするためのスキルを身につけます。他人に伝えるためには、自分の研究について自分自身がよく理解していなくてはなりません。自分の研究は、社会の中でどのような課題に応えるものなのか、特定の研究分野のなかでどのような位置づけにあるのか、そして、おもしろポイントはどこにあるのかを、TOCを制作する過程で見つめなおすのが、この授業の大きな目的です。
TOCとはTable Of Contentsの略で、論文の肝となることがらを一枚のイラストやごく短い動画などで表現した、グラフィカルなアブストラクトのことを意味します。近年、学術雑誌への論文投稿の際に添付を義務付けられることが徐々に増えてきました。新しい試みのため、どのようなルールで制作するかは雑誌によってまちまちで、国際基準のようなものはまだできていません。
そこでこの授業では、「一枚のイラスト」に「140文字(or 50 words)以内の解説」をつけることをルールとしました。その際、ターゲット層を各自自分で決めてもらい、その人たちに伝えるにはどこを切り取り、どのようなモチーフを使うのが適切か、試行錯誤を重ねました。全7回の授業で学生さんたちが制作したTOCを紹介します。どれも、紆余曲折を経て作り上げた力作です。
1.相田 拓郎 さん(農学院 生態環境物理学研究室 修士1年)の作品
研究テーマ:湖底環境マッピングシステムの開発
ターゲット:
阿寒湖に観光に来た人や環境に興味のある学生
解説文:
阿寒湖のマリモは世界でとても希少であり、保護保全が重要です。このロボットボートに搭載したカメラによって自動で調査区域を撮影し、取得した画像から空間的にマリモやほかの生物の分布が再現できるマッピングシステムを開発しています。このマップは普段見れない水中の世界を俯瞰することができます。
2.荒川 唯 さん(農学院 食品栄養学研究室 修士1年)の作品
研究テーマ:同位体標識による脂肪肝の基質の特定
ターゲット:
健康や食生活に興味を持つ社会人
解説文:
「脂肪肝」は肝臓に脂質が過剰に蓄積する疾患です。実は、この脂質は脂質以外からも合成されるのです!様々な物質に目印を付け、肝臓に取り込ませてみました。合成された脂質に目印が付いていれば、その物質が脂質に変化したことが分かります。どんな材料が使われているか見てみましょう!
3.藤原 弘平 さん(総合化学院 材料化学工学研究室 修士2年)の作品
研究テーマ:PdZn合金触媒上でのCO2からの常圧メタノール合成における第三金属の添加効果
ターゲット:
高校生
解説文:
メタノールを合成するためには触媒が必要である.工業的に使われるCu系触媒よりも熱に強いPdZnO触媒を用いて反応を行っている.しかし,PdZnOのままだとメタノールがあまり生成されない.そこで,PdZnO触媒に様々な種類の金属を添加することによって触媒性能をアップさせることができるのではないかと考え,様々なパターンを試している.
4.Mohammed Galib Hasan Abir さん(理学院 科学教育研究室 修士1年)の作品
研究テーマ:Study of Student’s acceptance of e-learning through the framework development of a comprehensive Technology Acceptance Model.(包括的技術受容モデルの枠組み開発による学生のeラーニング受容の研究)
ターゲット:
Higher Educational Institutions Student (University Student) interested in Educational Technology
解説文:
Education is transforming from his old form to current Tech Oriented Education. Here some of the contents that are related to Education is mentioned also it can be seen that how regular education system transformed to Online Education (e-learning) considering the factor student satisfaction, self-efficacy, quality content.
5.郎 華遥子 さん(理学院 宇宙理学専攻 惑星宇宙グループ 修士1年)の作品
研究テーマ:木星大気の渦構造と色の相関関係による鉛直構造把握の研究
ターゲット:
高校生(文理問わず)
解説文:
木星は地表面がなく、大部分がガスで構成された惑星です。その大気が他惑星に及ぼす影響が大きいのとは裏腹に、刻一刻と変化する複雑な構造は未だ解明されていません。しかしより直感的で明瞭な理解をするために、観測されたスペクトルの挙動と、色-成分分布が分かるカタログとを参照させながら大気のどこに何があるかを調べています。
6.西村 紗輝 さん(農学院 造林学研究室 修士1年)の作品
研究テーマ:ヤナギ類木材の腐朽における生立木腐朽菌の影響
ターゲット:
高校生以上の、生物学に興味のある人々
解説文:
菌は枯れた樹木を腐らせる「分解者」としての役割を担う。枯死した樹木は菌類にとっての住処であると同時に「食物」でもあり、「消化」しながら木材の性質を変えていく。枯れたばかりの材を好む菌からもろくなった材を好む菌まで様々であり、分解が進むにつれ木材を食べる菌の顔ぶれも変わっていく。菌の種ごとの「好み」を探ることで、顔ぶれが変わるメカニズムを考える。
7.鈴木 晶彦 さん(生命科学院 薬品製造化学研究室 修士1年)の作品
研究テーマ:光酸化還元触媒とコバルト触媒の協働による新たな重水素化反応の開発
ターゲット:
化学に興味のある中高生
解説文:
重水素(D)はその字の通り、重い水素原子です。重水素を含む化合物はより重く、強固になります。私はそうした化合物を作るために、コバルト(Co)とルテニウム(Ru)という金属、および青色光を用いて、水に含まれている重水素を効率よく化合物に導入できる新しい反応を開発しています。
8.田中 嘉穂 さん(農学院 ビークルロボティクス研究室 修士1年)の作品
研究テーマ:画像処理と機械学習を用いた作物の生育診断
ターゲット:
Students who are interested in agriculture or nature, Farmers
解説文:
For fruit and vegetable crops, early growth management is important to obtain stable yields. Therefore, farmers cannot neglect daily care. The goal of this research is to support the management of early growth. For example, in the case of tomatoes, the system detects the
number of leaves and grass height from images and diagnoses the growth stage. Furthermore, the system ties weather data together to derive the relationship between weather and growth.
以下の学生さんの作品については、未発表の内容を含むため公開を控えました。
日吉 竜冴 さん(理学院 低温物理学研究室 修士1年)
桐生 昇一 さん(生命科学院 薬品製造科学研究室 修士1年)
指導教員
池田 貴子(CoSTEP特任講師)、梶井 宏樹(CoSTEP博士研究員)、福浦 友香(CoSTEP博士研究員)