2011年11月15日に開かれたCoSTEP共催の三省堂サイエンスカフェ in 札幌。共催8回目の今回は、近畿大学医学部病理学教室講師、博士(医学)の榎木英介さんをゲストに迎えました。
1990年以降、科学技術政策によって大量に生み出された博士。この博士たちが就職できず余ってしまい「高学歴ワーキングプア」などという不名誉な呼ばれ方をされています。その一方で、将来、科学技術を担う人材の不足が心配されているという矛盾した状況があります。
なぜ日本の科学技術や社会を支えるはずの若い研究者たちがこのような事態に追い込まれているのでしょうか?
ちょうど1年前の昨年11月15日に出版された『博士漂流時代「余った博士」はどうなるか?』は、2011年の科学ジャーナリスト賞を受賞しました。しかし、榎木さんはジャーナリストではありません。れっきとした病理診断医です。
榎木さんはかつて生物学者を志した科学者の卵でした。1995年に東京大学理学部生物学科を卒業し、大学院に進学します。しかし博士課程に進学する中で、様々な壁にぶつかり悩み、中退して医師を志したのです。
その間、一貫して博士課程や大学が抱える問題点を様々なメディアを通して訴え、若手研究者をサポートする活動を続けてきました。この本はその集大成ともいえます。
今回は「コーヒー片手に気軽に科学の話を♪」といった雰囲気ではありませんでしたが、参加者が積極的に発言して熱い意見交換の場となりました。三省堂の担当者さん曰く、これまで実施した中で一番発言の多いカフェだったとのことです。もし科学そのものの話題であれば、まさに理想的なサイエンスカフェだったかもしれません(残念?)。とはいえ、榎木さんと参加者の活発な意見交換によってとても意義のある会になりました。
最後に、会場でとったアンケート(回答者数27人、無記名)によると、博士問題の最大の原因は「無計画に博士課程を増員した文部科学省」(11%)、続いて「博士がアカデミズムの進路にこだわりすぎている」(9%)、「大学院の教育内容と社会のニーズが乖離している」(8%)という結果となりました。
また有効だと思う解決策を聞いたところ、「全ての世代で、公平に研究者の人材流動化を進める」(15%)「科学者ではなく、技術者としての就職も視野に入れてスキルを磨く」(9%)、「特許、法律、マネジメント、知財など最先端科学の周辺領域のプロに」「博士課程の定員を大幅に絞る」(どちらも7%)という結果でした。
博士は増やすべきか、減らすべきか聞いたところ、「増やすべき」という回答はわずか4%。「増やすべきではない(減らすべき)」という回答が48%を占めました。(「分からない」が30%)
博士問題は、どこか遠い世界の話ではありません。博士1人を育成するのに、1億円近い税金がかかっているという試算もあります。あなたは博士に何を期待し、日本をどう変えていってほしいと思いますか?