2025年度のCoSTEP選科Aのテーマは「時」。科学技術コミュニケーションの切り口としても、目的・手段・理由・事柄など様々な観点から考えることができるテーマです。私たちのチームでは、この「時」という大きなテーマから、“時間をお金で買えるとしたら?”という着眼点にフォーカスしました。
「欲しい便利さと違和感の境界線ってどこにあるんだろう?」という問いが企画の出発点
日常生活の中で、私たちは効率化のためにお金を使うことがあります。例えば、フードデリバリーや家事代行サービスを利用すれば、移動や手間、待ち時間を省き、自分の時間を生み出すことができます。これらは“時間をお金で買う”選択をしていると言えるのではないでしょうか。
では、その発想を少し広げてみたらどうなるでしょうか。もしレポートや納品物の締め切り前に1日を買えたら? サプリを飲むだけで5時間分の睡眠を得られるとしたら?——そんなSF的な想像を膨らませる中で、チームではさまざまな選択肢についてブレスト的に議論しました。その中には、『これは欲しい』と思えるものもあれば、『そこまで必要ない』というもの、さらに『そもそもこの選択肢ってどうなんだろう…』と抵抗感や違和感を覚えるものもありました。こうした議論を重ねる中で、単なる必要性の差だけでなく、便利さと違和感の境界線に着目する視点が浮かび上がり、サイエンスイベントのテーマとすることにしました。
3つの商品と「欲しいか、欲しくないか」の選択
私たちが実施したのは、オンライン配信(YouTubeライブ+Slido)による20分間のインタラクティブ番組です。舞台はLife Express社が提供する近未来のテレビショッピング番組。視聴者は、提示される3つの商品に対して「欲しい/欲しくない」を選択しながら、自分の価値観と向き合います。
紹介した商品は以下の3つです。
番組は、各商品の魅力をテレビショッピングの社長役がテンポよく紹介するところから始まり、続いて購入者役が登場し、実際に利用した感想を伝えます。その直後場面が切り替わり、科学技術コミュニケーター役がその商品の懸念点を呟き、視聴者へSlidoを使った「欲しい度」を投票を促します。最後に、番組が終わった後、番組配信から2年後に世に流れたサービス提供を一時停止するお知らせがエンドロールで流れ、サイエンスイベントが終わりました。
番組終了後に画面が切り替わり表示するエンドロール
視聴者の反応
番組中、視聴者にSlidoを通じて「欲しい度」をリアルタイムで投票してもらいました。
この投票結果から、商品が日常の利便性から睡眠や出産といった人間の根源的営みに移るにつれて、肯定率は下がり、否定率は上がる傾向が読み取れます。
アンケートの自由記述から、参加者は以下のような考察を示しています。
「便利さの裏には負の側面もあるのでは」
「時間を買っても、結局別のやるべきことが増えるかもしれない」
「人工子宮は生命倫理の問題が大きく、使うべきではない」
これにより、「効率化の便利さ」と「人間らしさ・倫理」の境界線が浮き彫りになりました。
イベント・演習を終えてチームで収穫した気づき
アンケートのBefore/Afterでは、「時間をお金で買う技術には負の側面しかない」と答えた人が0%→10%に増加しました。意図以上に衝撃を与える可能性を実感する一方で、テレビショッピング形式を用いたことで、参加者が消費者・ユーザーとして自分の感覚と対話しながら考えられた点は大きな成果でした。
最後に
多様なメンバーが集まり、限られた時間の中で作り上げた合宿のような2泊3日でした。配信前日のリハーサルでは構成がやっと固まる段階で危機的状況にあり、指導教員から「過去10年で一番遅い」と言われるほどでした。しかし、粘り強くプロセスに寄り添い支えてくださった朴先生には心から感謝しています。チーム全員が協力し、笑いと試行錯誤を重ねながら創り上げた経験は、今後の科学技術コミュニケーションの学びにとって大きな財産となりました。
本記事は、2025年7月21日(月/祝)に実施した2025年 選科Aオンラインサイエンスイベント「時」の報告記事の1つです。CoSTEPの選科Aコースでは、全国各地の選科A受講生が札幌に集まり、オンラインサイエンスイベントをいちから作り上げる3日間の集中演習を行っています。24人の受講生が4グループに分かれ、計4つのイベントが行われました。以下のリンクより、ご覧いただけます。他の活動報告も順次公開していきます。ぜひご覧ください。
・選科A活動報告「ラブラブカップルに水をさすな!?」
・選科A活動報告「正しさだけでいいんすか? ~ネット番組から考えるサイエンスコミュニケーション ~」
・選科A活動報告「激論!投票直前スペシャル!!~あなたの一票で時が止まる?~」
・選科A活動報告「タイムセール ~時間、買いませんか?~」(本記事)