実践+発信

2025年度CoSTEP修了記念シンポジウム「動物を『育てる』『観せる』『伝える』──飼育造園展示から考える、動物園という場」を開催しました

2026.4.16

2026年3月7日(土)13:00-15:00、北海道大学工学部フロンティア応用科学研究棟2Fレクチャーホールにて、2025年度CoSTEP修了記念シンポジウム「動物を『育てる』『観せる』『伝える』──飼育・造園・展示から考える、動物園という場」を開催しました。

2025年度のCoSTEP受講生と一般参加者、合わせて114名もの方が来場しました。

(足元の悪い中、多くの方にお越しいただきました)
動物園について、新たな角度から考える機会に

札幌のとある動物園の閉鎖や、上野動物園のパンダの返還など、最近、動物園に関するニュースが多い印象です。こうした状況を背景に、2025年度を締めくくる修了記念シンポジウムでは、「動物園」をテーマに、改めてそのあり方を考える機会としました。

(開会の挨拶をする奥本部門長)

はじめに、開会にあたり、CoSTEPの奥本素子部門長より挨拶がありました。CoSTEPでは修了後も学びを継続し、社会の中で問い続けてほしいという思いから、毎年その時々の社会的課題や関心の高いテーマを取り上げ、共有の場としてシンポジウムを開催していると述べました。
近年、科学技術は単なる活用にとどまらず、倫理的・社会的観点を踏まえた実装のあり方が問われています。しかし、こうした議論は人間中心の視点に偏りがちであり、それが環境問題や持続可能性の課題とも深く関わっているのではないかとの指摘がありました。
今回のテーマである「動物園」は、人間以外の生物の視点から環境や社会を捉え直す刺激的なテーマとして、本シンポジウムが参加者に新たな視点をもたらし、ものごとを多角的に考えるきっかけとなることへの期待が示されました。

(今回のビジュアルについて説明する大内田特任助教)

次に、本シンポジウムの聞き手役を務めるCoSTEP特任助教の大内田美沙紀より、企画趣旨の説明が行われました。冒頭では、自身が制作したビジュアルを提示し、今回のゲストの若生謙二さんと本田直也さんが関わる複数の動物園展示の要素を組み合わせた「架空の動物園」を紹介しました。あわせて、生息環境展示が本来目指すのは、個々の展示を超えて動物園全体を一つの関係性として設計することである点に触れ、本ビジュアルはその厳密な再現ではないことを補足しました。
そのうえで、本シンポジウムでは、飼育・造園・展示といった異なる視点から、動物園という場の成り立ちや背景、そこにある制約と可能性、そして何を伝えようとしているのかについて、多角的に捉えることを目的としていると説明しました。

生息環境展示がひらく、ヒトと動物の関係

続いて、動物園デザイナーとして全国の多くの展示に携わってきた若生謙二さんによる講演が行われました。若生さんはまず、野生動物の生息環境と暮らしを「可能な限り」植物や地形によって再現するという基本姿勢を示し、こうした考え方に基づく展示を「生息環境展示」と呼ぶと説明しました。これは、動物に本来の行動や習性を発揮させるとともに、来園者の理解を深めるために不可欠なものです。

(お話をする若生さん)

講演では、ときわ動物園の事例が紹介されました。しなる木々を活かした環境の中でテナガザルが活発に動く様子が映像で示され、人工的な鉄パイプでは引き出せない行動が生まれることが強調されました。また、鉄素材は熱伝導率が高く、動物にとって快適とは言えない場合がある点にも触れ、素材選択の重要性が示されました。

展示設計においては、まず「メッセージの創出」を重視し、意図をもった空間づくりが必要であると述べました。加えて、敷地内外の環境を読み取ることや、生息地のランドスケープを理解するための現地調査を欠かさないこと、さらに堀やネットなどの囲いをランドスケープとして活用することなど、具体的な設計の視点が紹介されました。

また、動物を見下ろすのではなく見上げる関係性を重視する姿勢や、樹木の移植に立ち会うといった実践にも触れられました。こうした取り組みの積み重ねが、生息環境展示の質を支えています。さらに、この考え方が中学校理科の教科書に掲載されたことにも言及し、社会的な認知の広がりへの手応えが語られました。

最後に、動物福祉について、環境の充実と行動の選択肢を広げることの重要性が示されました。土地や植物といった「見える環境」と、温度や湿度などの「見えない環境」の双方を整えることが不可欠であり、生息環境展示はその実践であるとまとめられました。

飼育と保全をつなぐ実践知と環境デザイン

続いて、本田直也さんによる講演が行われました。本田さんは、円山動物園で長年飼育技術者として勤務した後に独立し、現在は生息域外保全センターの運営と動物園デザインの両面から活動を展開しています。

(お話をする本田さん)

講演ではまず、恵庭市に設立された保全センターについて紹介がありました。学校法人と連携することで、収益性の低い保全事業と教育を両立させるモデルを実現しているといいます。本田さんらの専門性は特定の動物種ではなく「環境のデザイン」にあり、建築環境学の知見を活かして、施設内に高山帯から熱帯まで多様な環境を再現しています。環境省からの依頼にも応じながら、多くの絶滅危惧種の保全に取り組んでいます。

また、野生動物の保全研究には、生息域内の研究者と動物園などの生息域外の飼育技術者との連携が不可欠であり、双方の視点から知見を積み重ねることの重要性が示されました。動物園は世界的なネットワークの中で命をつなぐ役割を担うとともに、展示や飼育を通じて来園者の保全意識を高める場でもあります。

さらに、本田さんは飼育における「実践的知」のあり方についても論じました。飼育は多くの要素が相互に作用する複雑な営みであり、単純化せず全体として理解する必要があります。その中には、言語化・数値化できる「形式知」と、経験に根ざした「暗黙知」があり、とりわけ後者が重要な基盤となります。ベテラン飼育員は、状況に応じた判断を直感的に行うことで適切な対応を導き出しており、こうした知は容易には言語化できません。

動物との関わり方については、擬人化する「一人称的かかわり」や、距離を置いて観察する「三人称的かかわり」に対し、相手の環世界を共有する「二人称的かかわり」の重要性が強調されました。飼育技術者はこの二人称的な関わりを通して動物を理解し、その知見を言語化していく役割を担います。

最後に、保全センターではこうした知を育むための教育にも取り組んでいることが紹介されました。身体的な経験を通じて暗黙知を形成し、それを言語化・論理化し、最終的に体系化・概念化していくプロセスが、飼育と学びの両面において重要であるとまとめられました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、事前に実施したアンケート結果を見ながら議論が進められました。来場者が動物園にどのような関心やイメージを持っているのかを手がかりに、日本の動物園の現状や役割、展示の考え方について話し合いが行われました。

議論は、教育・保全・レクリエーションといった動物園の役割に加え、ヒトと動物がどのような関係を築いていくのかという点にも広がりました。若生さんの展示デザインの視点と、本田さんの飼育・保全の現場からの視点が交わり、それぞれの立場から動物園のあり方について考える時間となりました。

(パネルディスカッションの様子)

なお、本パネルディスカッションの詳細およびアンケート結果については、今後 JJSC にて公開を予定しております。ぜひお楽しみに!

(会場で配布された事前アンケート結果)
新たな視座とともに ― 閉会の挨拶

シンポジウムの最後には、松王政浩センター長より閉会の挨拶がありました。松王センター長は、かつての天王寺動物園の印象に触れつつ、今回の講演を通して動物園や動物に対する見方が大きく変わったと述べました。

(開会の挨拶をする松王センター長)

若生さんの講演からは、生息環境展示によって動物にとって過ごしやすい環境を実現しながら、「見下ろすのではなく見上げる」という関係性を通じて動物のストレス軽減を図る新たな取り組みを知ったといいます。また、本田さんの講演からは、小さな絶滅危惧種の保全に向けて、生息域内外の知見を統合しながら取り組む実践の重要性と、その中で暗黙知を言語化・体系化していく試みの意義が示されたと振り返りました。

こうした話を踏まえ、ヒトと動物の関係は単純な対立ではなく、多様なコミュニケーションの上に成り立っていること、さらにその視点は科学技術コミュニケーション全体にも通じるものであるとの考えが示されました。特に、どちらか一方に偏らない「第三の視点」をいかに見出すかが重要であり、それは容易ではないものの、現場での実践を通して形づくられていくものだと述べました。

最後に、このシンポジウムが修了生にとって自身の視点を見つめ直す契機となり、それぞれの場で「第三の視点」を問い続けながら科学技術コミュニケーションを実践してほしいとの期待が語られ、締めくくられました。

(今回会場を彩ったのは、「動物園」をイメージして季々さんにご用意いただいたお花でした。躍動感あふれるアレンジメントが、本シンポジウムのテーマを象徴するかのようでした。)

動物園というテーマを通して見えてきたのは、ヒトと動物の関係の奥深さ、そしてものごとを多角的に捉えることの大切さでした。本シンポジウムで生まれた問いや気づきが、これからの実践の中でそれぞれの形に育っていくことを願っています。