実践+発信

災害で活躍する乗物たち

2012.4.2

著者:柿谷 哲也 著

出版社:20111000

刊行年月:2011年10月

定価:1000円


2011年3月11日に発生した東日本大震災では、強い揺れに加え、大津波が東北の太平洋側全域を襲いました。さらに、津波により東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)が事故を起こし、メルトダウンという深刻な事態に至りました。この大災害に際し、陸上・海上・航空の各自衛隊や海上保安庁、警察、消防など日本の各組織が総力を挙げて救助活動、災害対応を行い、さらに米軍をはじめ世界中から支援部隊が駆けつけました。本書は救助、復旧、調査などで活躍する車両、船舶、航空機などのあらゆる「乗物」に注目し、東日本大震災を中心とした災害で、それぞれの乗物がどのように働いたかを、写真とともに解説しています。

 

福島第一原発の事故では、かつて経験のない事態に対してあらゆる機材や手段が用いられ、また連日報じられる現場の状況を、日本中が固唾をのんで見守りました。本書にも、福島第一原発の事故対応に活躍した乗物が数多く紹介されています。例えば表紙カバーにも写真が載っている、航空自衛隊の大型破壊機救難消防車。使用済み核燃料プールに放水し、その冷却にあたりました。他にも、テレビの生中継もされた「使用済み核燃料プールへの投水作戦」に使われた陸上自衛隊の輸送ヘリコプターや、消防の大型高所放水車など原発への投水・放水任務にあたった乗物たちや、放射線に強いブルドーザーとして原発敷地内の瓦礫除去に使われた陸上自衛隊の戦車、放射能汚染水の一時タンクとして用いられたメガフロートなどが紹介されています。

 

もちろん本書では、原発事故以外の災害救助で活躍した乗物についても解説しています。物資や自衛隊員の輸送、患者搬送などにあたった航空自衛隊の輸送機や、救難・輸送ヘリコプターの基地として働いた海上自衛隊の護衛艦、海上漂流者や孤立した被災者の救助を行った海上保安庁の救難ヘリコプターなど、救助の最前線で働いた乗物たちです。さらには、被災者に温かい食事を提供した陸上自衛隊の炊事トレーラー、物資輸送に加えて被災者の医療支援・入浴支援も行った海上自衛隊の輸送艦、横浜から東北へ石油を輸送したJR貨物の臨時貨物列車といった、後方支援を行った乗物たちも紹介されています。

 

タイトルに「乗物たち」とあるものの、乗物を操る隊員にも重点が置かれているのが本書の特徴です。消防のハイパーレスキュー、海上保安庁の特殊救難隊などの救助の専門部隊や、災害医療支援チーム、さらには各国から派遣された国際緊急援助隊など、「部隊」そのものが紹介されているのがその一例です。

 

かっこいい乗物たちと、その活躍を支えた、たくさんの人たち。本書ではそれらの紹介を通じて、大災害時に展開された様々な活動を知ることができます。東日本大震災からの復興はやっと緒に就いたところで、日本中の生活が震災前とは変わってしまいました。そんな中、本書を読んで勇気づけられる人も多いのではないでしょうか。また本書は、乗物好きな小さなお子さんと東日本大震災のことを話す、よいきっかけになると思います。

 

 

高橋咲子(2011年度CoSTEP選科選科生 茨城県)