著者:小阪 淳・片桐 暁 著
出版社:20100700
刊行年月:2010年7月
定価:1400円
宇宙はどのようにして始まったのか、宇宙の果てはどうなっているのか、そして宇宙はどのようにして終わるのか――誰でもこんな疑問を一度は心に抱いたことがあるのではないでしょうか。そのような宇宙の生い立ちや宇宙の姿などを解き明かそうとするのが「宇宙論」と呼ばれる研究分野です。この本は宇宙論の最新の知見をもとに書かれた本です。
ユニークなタイトルと同様、本の中身もたいへんユニークな構成となっています。「10のレッスン」というタイトルの通り、レッスン1からレッスン10までの10の章から成っており、またそれぞれの章は小説部と講義部という2つのパートから成っているのです。
小説部の主人公は、文系大学生のコウイチと、天文学専攻の博士課程大学院生キョウコ。コウイチが抱く宇宙についての疑問に、キョウコが答え、あるいは議論するかたちで物語は展開します。普段の生活とは時間的にも空間的にもスケールがまったく異なる宇宙の話を、2人のやり取りを通して読者はゆっくりと丁寧に理解することができます。また、それと同時に進行していく2人のラブストーリーもとてもおもしろく読むことができるでしょう。もう一方の講義部では、小説部で登場する事柄が豊富な図を用いてさらに詳しく解説されます。
宇宙を理解するに当たり、この本ではまず「宇宙図」に沿って話が進みます。ビッグバンによって始まった瞬間から137億年にわたる宇宙の進化の様子、そして私たちが見ることのできる宇宙の姿を表す図で、文部科学省が「一家に一枚 宇宙図2007」というポスターとして発行したものです。このポスターの制作に携わったのが、美術家の小阪淳氏とコピーライターの片桐暁氏。実はこの本は、2人が宇宙図を制作したことをきっかけに宇宙論にさらに深い興味を抱き、宇宙論の第一人者、佐藤勝彦氏の監修のもと書いた本なのです。多彩な才能が集まることで、このユニークで魅力的な本は生まれたといえます。
やがて、コウイチらの疑問の対象は、宇宙を見つめ、また宇宙の一部でもある私たち人間とは何なのかという問題に至ります。これについて、講義部ではこう述べられます。人間は「宇宙の片隅でしかない地球の表面に張り付いて、もぞもぞ動く微小で無知で短命な生き物」にすぎないと。しかしながら、小説部の主人公たちは、懸命に宇宙に思いを馳せ、研究者を取り巻く現実の中で悩みながら、恋をし、エンディングへと向かっていきます。
読み進めるうちに、小説部があるというこの本の特徴は、けっして内容をわかりやすくするためだけのものではなく、「知りたい」という自然な気持ちから科学を生み出してきた人間の営みをも描き出すものであることに気付かされます。そして、レッスン10を読み終えるころには、宇宙の、そして私たち自身の深遠なる不可思議さに、あなたも恋をしているに違いありません。
松井 渉(2011年度CoSTEP選科生 福岡県)