3月30日、北海道大学東京オフィスにて2回目となる『科学技術コミュニケーション』を読む会が、「JJSCを読む会」実行委員会主催で開催されました。評者には、2012年に開催された世界市民会議(WWViews)の企画運営に携われた池辺靖さん(日本科学未来館)を迎えました。池辺氏の報告と問題提起を受けて、論文の著者である江守正多さん(国立環境研究所 地球環境研究センター)と三上直之さん(北海道大学高等教育推進機構)が応答し、会場に集まった参加者11名を交えて議論が繰り広げられました。
題材となった論考は、『科学技術コミュニケーション』第14号に掲載された「地球温暖化と科学コミュニケーション」に関する小特集の3本。この小特集は、昨年9月のシンポジウム「地球温暖化問題と科学コミュニケーション」(主催:北海道大学CoSTEP・科学技術社会論学会)で「闘論」を繰り広げた哲学者と科学者、社会学者の3人が、席上での発表内容をもとに書き下ろした論考を集めたものです。
● 地球温暖化問題における専門家の責任と社会の責任:
- シンポジウム「地球温暖化問題と科学コミュニケーション : 哲学者と科学者と社会学者が闘論」に「科学者」の立場から参加して(著者:江守正多)
● 地球温暖化問題における市民の役割, 科学者の役割 :
- 科学技術社会論学会シンポジウム「地球温暖化問題と科学コミュニケーション」報告,哲学者の立場から(著者:松王政浩)
● 市民参加への懐疑論に答える:
- よくある五つの疑問を中心に(著者:三上直之)
評者の池辺さんは、それぞれの論文の概要を報告後、江守論文や松王論文で言及されている「政策判断で行われる情報のパッケージ化には、科学者の価値判断が入り込む」(松王 2013)、「科学者が完全に価値中立的に社会に対して知見を提示することは原理的にできない」(江守 2013)といった科学者の価値判断をめぐる論点を取り上げました。池辺さんは、「科学者は、ある境界条件のもとに未来予測をするのが仕事であり、科学者の価値判断と無縁に行うことができる」とコメントをしました。さらに、「市民個人は、科学者が提示した複数のシナリオについて判断する。判断は多様なため、コミュニティ全体のシナリオをすり合わせて、コミュニティの価値観を作り出すのが市民対話ですること」と、科学者の役割と市民の役割の境界線を示しました。
池辺さんからの報告後、江守さんは「現在横浜で進められているIPCC作業部会でのシナリオワークショップでも、(科学者同士の議論が)紛糾している。実際の議論を見ていると、価値判断の線引きはかなり難しい」と応答しました。
三上さんからは、「市民参加の意義として、責任の分配は概ね合意できる。しかし、権限と責任があり、両方がセットで分配されなければならないが、権限がない状態で責任だけが分配されることにはブレーキが必要」という意見が述べられました。
その後、来場者を交えてのディスカッションが行われました。来場者からは「市民は、科学者の価値判断がどこに入っているかわかればよいだろう」「コミュニティの価値のすり合わせをする具体的な手法はあるのか」「シナリオの決定版をつくることが前提だと問題がある。時間軸をふくめた繰り返しのプロセスを設計する必要があるだろう」「市民参加では個人の価値観を開示すること、できることが前提なのか。(本人は)価値観がわからないこともあるし、開示する事はリスクを伴う。市民参加だから価値観を見せろ、というのも怖いと感じる」といった意見が出されました。
引き続き、6月に発行予定の第15号についても「読む会」の開催が予定されているそうです。雑誌『科学技術コミュニケーション』が、成果を発信する媒体にとどまらず、交流の場を生み出し、議論を発展させていく媒体となるよう、今後も継続的に開催してほしいと思います。
なお、『科学技術コミュニケーション』読む会は、「JJSCを読む会」実行委員会が主催し、北海道大学大学院理学院自然史科学専攻科学コミュニケーション講座の共催、CoSTEPの協力のもと実施されました。