5月10日、開講式特別講演会を開催しました。ゲストは、NHK・Eテレで放送中の〈デザインあ〉のディレクター、佐藤正和さん(NHKエデュケーショナルこども幼児部主任プロデューサー)。講演のタイトルは「カガクするココロを育む〈デザインあ〉の挑戦」です。会場となった理学部大講堂には220名を越えるCoSTEP受講生・修了生や市民のみなさんがつめかけ、大盛況となりました。
そのお話の一部を紹介します。
〈デザインあ〉のターゲット、そして使命
〈デザインあ〉はこどもたちが〈デザイン〉に初めて出会う番組です。ターゲットとした5〜10歳という世代には3つの特徴があります。1つ目は、「なぜなぜ?」と、問いかけを素直にできること。2つ目は「当たり前」という価値観をもっていないこと。3つ目は「自由な想像」ができることです。
僕は「使命」という言葉が好きで、よく使っています。教育番組に携わって10年間、僕は何のために命を使ってきたのか?という自分自身への問いに「明るい未来を築くための種を植える」ため、そして「おもしろがる心を育む」ため、「自分の価値を見つけてもらう」ためと自答しています。
科学技術コミュニケーションとの共通点
今回お話させていただくにあたって、科学技術コミュニケーターと〈デザインあ〉とのリンクについて考えてみました。科学技術コミュニケーターは科学の専門家と市民との橋渡しをして、科学の市民化を目指しています。〈デザインあ〉は、デザインの専門家の知恵を伝え、デザインの大衆化を目指しています。これらの共通テーマは、知らない人に面白さを魅力的に伝える、ということではないかと思います。
今の時代は情報が溢れています。検索だって簡単にできます。どの情報も魅力的に飾られていて、何を頼りに選択し、生きて行けばよいか判断に迷うこともあるでしょう。そんな時にしっかりとした「物差し」を持っていれば、情報に振り回されることなく生きていけるのではないでしょうか。
〈デザイン〉とは
実は〈デザイン〉は門外漢でした。そんな僕に4年前「今までにない新しい番組をつくってほしい、テーマはデザインで」と突然命が下りたのです。結果的に、何も知らなかったことが良いスタートにつながったのかもしれません。最初からこどもと同じ目線でデザインに触れることができたのです。
僕なりに言語化した「デザイン」とは「人とモノ、人と人との関係を“より良くつなげる“ための観察・思索・行動のプロセス」です。問題を見つけて、よりよく解決してゆく力=デザインは、あらゆる人に役立つはずです。現代は先行きが不透明な時代と言われています。未来を担うこどもたちのことを考えたとき、課題に向き合ってより良く解決していくデザイン力を武器に生きてほしいと強く願うようになりました。
これまでのこども番組のセオリーを禁じ手にして
僕のミッションは「今までにない新しい番組制作」でした。これまでのテレビは「非日常」や「珍しさ」「驚き」をお茶の間に届けてきました。だから、〈デザインあ〉ではこどもが知っているモノしか扱わないことにしました。すると、テレビの前のこどもたちに安心という心地よさが生まれたのです。すでに共有できている部分があることは、コミュニケーションの入り口として強みになることに気づきました。また、できるだけ言葉を使わずに、音と映像で見せることを番組の個性としました。
必要最低限の情報は、受け手が自由に鑑賞する余地を残す結果につながりました。最初から意図したわけではなかったのですが、受け手にとって負担の少ない情報は、この番組が国境を越えて受け入れられる結果につながったのだと思います。
より良い未来を築くための創造的コミュニケーション
僕は「共育」という言葉をよく使います。教える側も教わる側も一緒に考えながら、成長したいと考えています。知識や知恵の共有はゴールではなくてスタートです。例えば、生態系について学べば、自分と環境のつながりを知ることになり、そのつながりの連鎖が見えてきます。それがクリアになると、社会に対して貢献できることを意識し実践するようになるのです。これが「より良い未来を築くための創造的コミュニケーション」です。
なんのために「科学」や「デザイン」を伝えるのか。それはみんなでより良い未来について考えるためだと思います。皆さんは科学技術コミュニケーターとして何をつなげていくのか。より良い未来を築くための創造的コミュニケーションを実現されることを期待しています。