実践+発信

76サイエンスカフェ札幌「カガヤク、カガクホウ素の力で未来を照らす~」を開催

2014.8.28

2014年8月3日(日)、紀伊國屋書店札幌本店前インナーガーデンにて、第76回サイエンス・カフェ札幌「カガヤク、カガク ~ホウ素の力で未来を照らす~」を開催いたしました。最高気温が30度を超えるなか、約70名の方が会場に足を運んで、ゲストの作田絵里さんと1時間半にわたって交流しました。

作田さんは北海道大学大学院理学研究院化学部門の助教であり、錯体光化学を専門としている注目の若手研究者です。今回のサイエンス・カフェでは発光の仕組みから、それを応用した最先端研究である人工光合成の話題まで、実際に物を光らせる実験を交えつつお話していただきました。

発光ってなんだろう?

皆さんは、物が光っている様子を見て不思議に思ったことはありませんか。私たちの身の回りは、光るもので満ちあふれています。しかし、それらがどのような仕組みで発光しているのかについては、知られていないことが多いのです。今回のカフェは、作田さんがその疑問に答えることから始まりました。

発光という現象は、物質がもつ電子が電磁波や熱、摩擦などといったエネルギーを受け取って活性化し、そのエネルギーを光として放出する際の現象だそうです。非常に難しいこの仕組みを、作田さんは滑り台の模型とゴマちゃんのぬいぐるみを用いて分かりやすく解説してくれました。

さらに、話は発光の種類についての解説に移ります。発光は、電子が活性化する際にどのようにエネルギーを受け取ったかによって分類できるそうです。作田さんはいくつかの代表的な種類の発光を、目の前で実演しました。残念ながら会場内が明るく少し見えにくい実験もありましたが、試薬がさまざまな色に輝く様子をみて、大人の来場者から感嘆の声があがるだけでなく、小さなお子さんの「光った!」という嬉しげな声も聞こえてくる印象深い一幕となりました。

研究のキーワード「ホウ素」

作田さんは、ホウ素を活用した発光物質の合成を行っている研究者です。そこで、なぜホウ素に注目しているのか、そして、それがどのように人工光合成の研究と結びつくのかについても話していただきました。

皆さんは、石油や石炭をはじめとした天然資源があと何年ほどで枯渇するかご存知でしょうか。実は、ガソリンの原料である石油は約42年、原子力発電に使われるウランは約100年で枯渇すると予測されています。そこで注目されるのが、尽きることのない太陽光を利用する光合成です。

光合成とは、植物が太陽光からエネルギーを得て、水と二酸化炭素から炭水化物を合成する過程のことです。この過程をさまざまな触媒を用いて人為的に行うことを人工光合成と呼び、二酸化炭素からアルコール燃料などの有用なエネルギー源を作り出すことができるそうです。そうなれば、地球の資源問題に大きく貢献できますね。

今まで人工光合成については金属を利用したものを中心に研究が進められてきましたが、金属は一般的に高価であり、埋蔵量もそれほど多くありません。そこで、作田さんはホウ素を利用した人工光合成について、日々研究を行っています。

ホウ素は、ガラスや超伝導性化合物などの材料として使われているように、私たちの身近に数多く存在しています。そんなホウ素の特徴の一つとして、電子を引きつける能力が高いことがあげられます。それを利用すると、効率的に発光する化合物を作ることなどが可能となるだけでなく、現在人工光合成に使用されている、高価で貴重な金属触媒の代用としてホウ素を使える可能性が出てくるそうです。そうすれば、人工光合成の実用化にまた一歩近づくことができます。

資源の枯渇という大きな課題に直面する今、未来に不安を感じている人も多いでしょう。今回のカフェは、そんな不安をホウ素の力で生まれた光が打ち消してくれるような、大きな希望を与えてくれるお話でした。作田さん、ありがとうございました。

(清水大介 2014年度CoSTEP本科生/北海道教育大学大学院生)