今回のサイエンス・カフェ(以下カフェ)は、北海道大学のCoSTEP受講生が主体となって企画してきました。ゲストはCoSTEPの修了生でもある古川泰人さん(農学研究院学術研究員)です。話し合いの中で古川さんとわたしたちは、ゲストが何かを「教えてくれる」カフェではなくゲストと来場者が「同じ立ち位置にいる」カフェをつくりたいと考え、様々な新しい試みを盛り込みました。
【佐々木萌子・北海道大学薬学部薬学科5年/CoSTEP 11期生 対話の場の創造実習】
(ゲストの古川泰人さん)
「わたし地図」を考える
地図をめぐる冒険、一歩目の案内人は佐々木萌子(薬学部5年)が務めました。来場者の手元には「車いすの人」、「幼稚園児の子どもがいる人」といった立場が書かれたカードが。この立場カードを使って、「もしその人の立場だったらどんな地図がほしいか」をみなさんに紹介しあってもらいました。
(立場カードに記入してもらう)
地図を重ねて使う
第1ステージは「オープンストリートマップってつまり何?」と題して、冒険に必要な「地図」と地図の新しい形である「オープンストリートマップ(OSM)」について古川さんとともに学びました。ファシリテーターは小倉麻梨子さん(総合化学院博士課程1年)です。
(小倉さんと質問カード)
今の地図は1枚ではなく、重ねて使うものだ、と古川さんが取り出したのは、昔ながらのOHPシートです。様々なOHPシートを札幌の地図に重ねると、自分の住む地域がどれだけ浸水するかや、避難所がどこにあるのか、人口密度が高い地域はどこなのかという情報を一目で把握することができました。OHPシートを実際に重ね合わせることで、地図を重ねて使う意味がわかりました。
(OHPシートを重ねることで地図の重ね合わせを表現する)
オープンストリートマップを可能にするクラウドソーシング
地図を見ても道路や建物の位置が変わっていて、地図に載っていないということがよくあります。一方でOSMは地域の変化を多くの人の手で協力して更新する「新鮮な」地図です。インターネットを通じてOSMに書き込みをすると、それが世界中の人に共有されます。この「クラウドソーシング」という技術によってOSMは作られています。実際にハイチ地震、ネパール地震、鬼怒川の水害など自然災害時には、世界中の人がインターネットを介してどこの家が倒壊し、どの道が通れないのか、逆に新しくできた避難所の場所などの、被災地の状況を書き込みました。新鮮な地図を作ることで、間接的に被災地を支援することができる、という話をお客さんは真剣に聞いていました。
(進行役の佐々木さん)
高度情報社会の手作り地図 オープンストリートマップ
第2ステージでは「OSMにもっと近づく!」と題して、わたしたちの身近でOSMがどのように使われているのかを考えていきます。ファシリテーターは石宮聡美さん(生命科学院修士1年)です。
OSMは災害時だけではなく、トヨタのカーナビ、無印良品のシティガイドなど企業でも使われています。また、道内の森町や比羅夫ではOSMに宿泊施設や飲食店を書き込んでいます。Google mapを比べると鮮度は一目瞭然。お客さんも違いに驚いた様子でした。新鮮で詳細な地図をつくることで自分のまちを全世界に発信することができます。地図を作ることは「まちづくり」につながるのです。
(石宮さんと冒険マップ)
学生自身による大学構内のマッピング
大学生がOSMを使って構内をマッピングしています。酪農学園大学では、木の1本1本まで位置、色、高さを正確にマッピングしています。OSMの情報は3D化して見ることもできます。大学の建物や木がスライドに立体的に映し出されると、会場から歓声が上がりました。カフェが始まる前から右前方でパソコンをいじっていたのは池晃祐さん(農学院修士1年)です。彼は北海道大学大の並木情報をOSMに書き込んでいたのです。今OSMで北大を見ると酪農大のように立体的な並木が見られるに違いありません。OSMは初めて使う人でも簡単に情報を書き込むことができるのです。
(カフェの場でのマッピング)
画面上の地図だけではない可能性
OSMは自由な発想で使用することが許可されています。つまり、OSM柄のブランケットやストッキングをつくることも可能なのです。実際わたしたちスタッフが着ていたTシャツも、カフェのポスターデザインを担当した中村俊介さん(農学院修士1年)がOSMのデータをもとに作ったものです。自由に使えるのだから、ぜひ使ってくださいと古川さん。OSMを使っておしゃれなものをつくることができる、とお客さんも驚いていたようでした。
(スタッフのTシャツのデザインはOSMを使ったものである)
自分のほしい地図を見つけ、自分でつくる
最近みんなでまちを歩きながらOSMに書き込む活動「マッピングパーティー」が盛んに行われています。札幌でも、車いすで行けるトイレやお店をまち歩きをしてOSMに書き込む活動「ホイールマッププロジェクト」が行われています。代表を務めるのは木明翔太朗さん(法学部3年)です。
第3ステージは「作ろう!地図をこの手で」と題して、ホイールマッププロジェクトが主催したマッピングパーティの様子を上映しました。お客さんは真剣に映像を観ていました。
(インタビューに答える木明さん)
わたしがほしい「わたし地図」は「みんなの欲しい地図」にもなる
地図をめぐる冒険も終わりが近づいてきました。冒険の最初に、ある立場の人ならどんな地図がほしいかを紹介しあいました。最後は「自分だったらどんな地図がほしいか」を考えてもらいました。「坂マップ」、「パン屋さんマップ」など、たくさんの意見が出ました。
今回の冒険が終わっても、次はみなさんが自分のほしい「わたし地図」をつくる冒険に出発することを願っています。
「地図とは、偉大な科学者であり素晴らしき仲間」と語る古川さん。地図、そしてOSMの魅力をわたしたちに伝えていただきました。ありがとうございました。
(古川さん、木明さんとコアメンバーの集合写真)
追記
9月27日に行われた、第83回サイエンスカフェ札幌「地図をめぐる冒険~オープンストリートマップを使ったまちづくり~」に参加されたみなさんが考えた「わたし地図」について紹介します。
(それぞれの立場の「わたし地図」の一例)
カフェの冒頭では「もしカードに書いてある立場の人になったらどんな地図がほしいか」という「わたし地図」を考えていただきました。カードは、(1)幼稚園児の子どもがいる人、(2)札幌に住む小学生、(3)札幌に初めて来た観光客、(4)車いすの人の4つの立場を用意しました。それぞれが「わたし地図」を考えた後、3分間という短い時間で周りの人と自分の思う「わたし地図」を紹介しあってもらいました。周りの人と紹介しあうことで、立場に関わらず様々な種類の「わたし地図」があることや、自分とは違った視点に気付かされたのではないでしょうか?それぞれの立場ごとに多くの意見が出され、立場によって様々な「わたし地図」が必要とされていることがわかりました。
カフェの最後では「あなた自身の立場だったらどんな地図がほしいか」という「わたし地図」を考えていただきました。すると本当にたくさんの「わたし地図」が集まりました。
(「わたし地図」の一例)
みなさんひとりひとりがあったらいいな、と思う「わたし地図」を、実際に作ることができるのがオープンストリートマップです。あなたの身のまわりでオープンストリートマップはたくさん使われています。それらをぜひ見つけてみてください。また、オープンストリートマップを使って、あなた自身の「わたし地図」をつくったり、あなただけのグッズを作ってみてください。そして、マッピングパーティーに参加して、みんなのための「わたし地図」をつくってみてください。オープンストリートマップの使い方は使う人の数だけあります。あなたなりのオープンストリートマップの使い方をぜひ見つけてください。
今回のカフェの締めくくりとして、参加者のみなさんにとって「『地図』とはなにか」に答えてもらいました。こちらもたくさんのフレーズが集まりました。
冒険には「地図」が必要です。みなさんがオープンストリートマップを使って新たな冒険に出発することを願っています。たくさんのご参加、ありがとうございました。
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■参考
○20150928Costep地図をめぐる冒険参考リンク集:
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1RCadrPVujyzx9w3hPZJw-ndOaoI0S3oQ-KkycVfzzdI/edit#gid=0
○作ろう! 地図をこの手で。〜マッピングパーティー in すすきの〜(マッピングパーティーの動画):
https://youtu.be/NPyK9W0udZg