実践+発信

「科学技術コミュニケーションにおけるコミュニケーションを考える」(5/23)種村 先生講義レポート

2020.6.9

安達 寛子(2020年度 専科/学生)

CoSTEP特任講師・種村 剛 先生の講義について報告します。私たちはCoSTEPで科学技術コミュニケーションについて学んでいますが、科学技術コミュニケーションとは何かを考える上では、そもそも「科学とは何か」「技術とは何か」「コミュニケーションとは何か」がわかっていなければなりません。そこで今回は、人と人とのコミュニケーションについてご講義いただきました。

コミュニケーションと理解

人と人とのコミュニケーションには、メッセージの伝達だけでなく、理解の過程も重要となります。例えば、きつねうどんを注文しようとして「わたしはきつね」と述べた人と、それを文字通り受け取って「あなたはきつねではなくて人間だよ」と答えた人がいるとしましょう。この場合、言葉そのものは正しく伝達されていますが、両者の間には理解のずれがあります。私たちのコミュニケーションは情報・伝達・理解からなるものです。そのため、機械と機械の通信のように、ただメッセージが伝達されればよいわけではないのです。

また、コミュニケーションにおいて理解を成立させる要件として、「相互行為」と「文脈」があります。

相互行為とは、相手の行為に続けて行う自分の振る舞いの繰り返しです。例えば、「わたしはきつね」「あなたは人間だよ」「違うよ、きつねうどんを注文したいんだよ」といったように、相互行為の中で相手の理解を確認し、ずれを修正していくことができます。双方向のやりとりから、互いの理解が作られていくのです。

文脈とは、それまでの相互行為が行われてきた状況や、社会常識など、非常に幅広いものを指し示す言葉です。例えば、うどん屋にいるという文脈があれば、「わたしはきつね」という発言に対して「きつねうどんを注文したいんだな」という理解が成立します。文言の理解の前提には文脈があるのです。

コミュニケーションと信頼醸成

どれだけ言葉を尽くしても、人と人とは完全にはわかりあうことはできません。実際に相手が自分と同じ理解をしてくれたとしても、そのことを確実に知る術はありません。では、対話してもわかりあうことができないのならば、コミュニケーションの目的とは何なのでしょうか。

それは「信頼」だと種村先生はいいます。人と人とは完全にはわかりあえない、だからこそ信頼が必要なのです。知らない(知り得ない)部分についても「まあ、この人なら大丈夫だろう」と思ってもらうためには、信頼が必要不可欠です。

しかし、ただコミュニケーションをとったからといって、必ずしも信頼が生まれるわけではありません。コミュニケーションによって信頼が生まれ、さらに活発なコミュニケーションへと繋がるという正の循環がある一方で、コミュニケーションによってわかりあえなさが強調され、不信感からコミュニケーションが減少していくという負の循環も存在します。

 科学技術コミュニケーション

それでは、科学技術コミュニケーターを目指す私たちは、どのようなコミュニケーションを目指せばよいのでしょうか。信頼の醸成は、科学技術コミュニケーションの大きな目的のひとつでもあります。そもそも、様々な科学技術を信頼してもらうために科学技術コミュニケーションが生まれた、といっても過言ではないのです。

信頼を生み出すための科学技術コミュニケーターの役割としては、対話できる場を作ることと、正の循環によって信頼が醸成されるよう、専門家と市民の対話を促進することがあげられます。近年の科学技術コミュニケーションにおいては、「専門家が一方的に知識を発信する」「難しい内容を噛み砕いて伝えて理解してもらう」というだけの段階は既に過ぎているようです。専門家以外の方々と情報交換を行い、その上で一緒に新たなものを生み出そうという考え方が特に重要視されつつあり、様々な市民参加のあり方が模索されています。このような参加型のコミュニケーションを行っていく上では、上記のような科学コミュニケーターの働きかけは、特に重要なものとなっていくでしょう。

科学技術コミュニケーションの場において、コミュニケーターは必ずしも主役ではなく、専門家と非専門家の間に立って、互いのコミュニケーションを手助けする存在だと考えられます。本日の講義を聞き、私もそれを実践できるようになりたいと強く思いました。

種村先生、ありがとうございました。