実践+発信

モジュール4-1「社会問題社会関係資本を生み出すSNS」(10/19)前田至剛先生講義レポート

2025.1.17

石坂晴奈(2024年度選科B/社会人)

科学技術の多面的課題を考えるモジュール4の最初の講義は、社会学を専門とする前田至剛先生です。「社会問題/社会関係資本を生み出すSNS」をテーマに、SNSのもつ二面性が絡みあってもたらす情報バースト(炎上)を考えます。

SNSが生み出すものとして、社会問題と社会関係資本のどちらの側面を強く感じるでしょうか。

私は、連絡手段として以外のSNS使用頻度が低いためか、炎上が起きている/起きていたらしいと遅れて知ることはあっても、社会関係資本の側面を感じることは少ないように思います。また、もし他者とのつながりを求めてSNSを利用しているとするならば、そのような場で情報バーストが起きていく、またはそこに巻き込まれていくことを想像すると、心穏やかに他者とつながれなくなりそうな気がします。

みなさんはどうでしょうか。

なぜ今、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)が重要なのか?

社会関係資本(ソーシャルキャピタル)とは、人と人との関係を資本(生産要素の一つ)とする考え方です。ボランティアや寄付行動などと関係があることがわかっており、国の繁栄度を表す指標の一つとされています。

ソーシャルキャピタルの基本要素は、信頼・規範、ネットワークの3つです。目の前の人間がいつ自分を裏切るかわからないという不確定な状況において、他者と関係を構築していく際には信頼が必要となります。近代化が進む前までは、人々はムラ社会を形成し、裏切り者が出ないようなルールをつくりながらネットワークを築いていました。しかし、近代化によって、決められた集団を抜け出して自ら集団を選択するようになりました。さらに近代化が進み、公助の機能が失われつつある中で、共助や自助のように自分でネットワークを築いて生きていかなければなくなりました。

なぜSNSを考える必要があるのか?

そこで、現代において影響力をもつようになったのがSNSです。

SNSは、公開範囲を設定することでつながる広さを自ら調整できる、好きなときに利用できる随時性と同じ時間を共有できる同期性がある、距離による制約がないといった利点があります。このようなことから、世界中の多くの人々に利用されています。さまざまな人と自由につながれるSNSは、ネットワークを形成する一つの手段となっています。

その一方で、無料で利用できるようにするために、SNSでは広告を流し、利用者のデータを取得します。SNSでの広告は他の方法に比べて効率がよく、取得した利用者のデータを活用してさらに利益を出すことができるため、SNSは経済システムとの親和性が非常に高いという特徴があります。さらに、どのような情報をどのような人に提示するかを操作することができます。利用者に合わせた情報が必ずしも悪いわけではありませんが、このような側面が社会問題を増幅させうるという危険性もはらんでいます。

SNSの情報は、人々の注意や関心を引きやすいように制御されています。また、人々の関心が高い、かつ不確定な情報であるほど噂は流れやすく、真実の情報よりも虚偽の情報の方が速く広く広まっていく傾向があることがわかっています。これらが絡みあい、ネガティブな感情に突き動かされて制御不可能になった膨大な情報の流れ:情報バースト(炎上)が起きることがあります。ネガティブな感情の中でも怒りは特に広まりやすく、怒り>喜び>悲しみ・嫌悪の順に広まりやすい傾向があります。

なぜ情報バースト(炎上)が起きるのか?

この疑問に答えるには、人間は有意味なものを求める生きものであるという前提が必要となります。これまで人々が築いてきた人間関係は、近代的システムの中でお金を媒介して物や商品として扱われるようになりました。SNSはまさに、人とのつながりがコンピュータ同士の接続に媒介され、本来偶然性のあるどのような人と遭遇するかということすら、アルゴリズムによって制御されています。さらに、SNSは利益を上げるように設計されているため、意味のあるものを求める人々が注意や関心を向け、反応や意思を表明したくなるような仕組みになっています。

つまり、SNSにおいて
・嘘や怒りの情報は特に広まる速度が速い
・人とつながることをコンピュータが代行している
・どんな情報に遭遇するかがコントロールされている
・有意味なものを求める人間が、つい反応したくなるように設計されている

ということから、本来人間関係には存在しなかった非難の集中=情報バーストが起きることは必然といえます。嘘の情報を広めることが結果として人々に有意味なものを与えることになり、それが加速するような設計になっているということです。そう考えると、規制によって情報バーストの発生を防ごうとする現在の対策は、問題の本質を見誤っているのではないかと前田先生は指摘します。

無秩序だから情報バーストが起きる?

個人でのレベルを超えて非難が集中し、炎上という大きなうねりになることが問題だとすると、その大きなうねりは、無秩序(規範がはたらかないこと)によって生まれるのでしょうか。これに対して前田先生は、「むしろ規範的な行動をしようとして情報バーストが起きる」と応答します。
炎上は人々が規範を守らないことで起きるのではなく、他者の不道徳や正義に反する行為を目撃し、正義を追求することによって起きるといいます。逆に、異質な他者を認める・尊重すべきという思考は、SNSへの投稿を控える傾向があるといわれています。

つまり、情報の伝播を規制したとしてもモラル同士の衝突が起こり、むしろ、情報の伝播に人々が見出した意味を補強してしまうことになります。

SNSによる社会問題を大きくしないためには?

このテーマに関する社会学の研究として、ソーシャルキャピタルには結束型・橋渡し型という二つのタイプがあり、それぞれがSNS上でどのようなふるまいをする傾向があるのかをご紹介いただきました。
では、このような人の性質や行動傾向を知り、それがどのような仕組みと合致して増大しやすいかを知れば、情報バーストは防げるでしょうか。情報バーストが起きることを前提として、なるべく早く沈静化するように対処するのがよいのでしょうか。はたまた、SNSを離れてリアルな人とのつながりに戻ればよいのでしょうか。そもそも情報バーストによって困ることは何なのか、反対に得をする人は誰なのでしょうか。

私は今回の講義を聞いて、人間がつい求めてしまうものが、強力なシステムに組み込まれることへのこわさを感じました。SNSは、現実の声よりも大きな音で、しかも耳元で噂話をされているようなものではないかと思えてきます。つい聞いてしまうし、周りの人の声が聞こえなくなってしまうような気がします。SNSの社会問題の側面をなるべく小さくして、ソーシャルキャピタルに貢献する側面を大きくするには、どのように使っていけばよいのでしょうか。

次に炎上を目にしたときに、何を感じ、どう考えればよいのでしょうか。

(バツではなく、SNSの「X」です!)