秋田紀子(2025年度 選科A 受講生)
モジュール6「社会における実践」の第2回講義では、金沢大学人間社会研究域地域創造学系准教授であり、CoSTEP修了生でもある一方井祐子先生より、「理系分野におけるジェンダーギャップ」をテーマにご講義いただきました。豊富なデータに基づき、女性が理系分野において少数派である現状とその要因、そして改善に向けた取り組みについて、多角的に学ぶことができました。

1. 理系分野におけるジェンダーギャップの現状
世界的に見ると、科学者を目指す女性は着実に増加しています。「科学者のイメージを絵で描く」というアメリカの調査では、女子生徒が女性科学者を描く割合が1960年代の1%から2016年には34%にまで上昇しました。アメリカでは、その要因として、理系分野特有の男性的カルチャー、幼少期の経験不足、自己効力感の欠如の3点が指摘されています。また、母親のバイアスが、子どもの性別によって進路選択に大きく影響するという研究結果も紹介されました。

日本の状況に目を向けると、学校基本調査のデータから、男女の専攻分野に明確な違いがあることが分かります。男子は社会科学・工学に集中する一方、女子は人文科学・社会科学・保健の割合が高く、工学は極めて少ない状況です。理学系の中でも分野差があり、生物学は女性比率が約40%と比較的高いものの、数学は20%以下、物理学は10〜20%と極めて低い水準にとどまっています。
さらに、3Mが2021年に実施した科学に対する意識調査では、STEM分野を目指す女子学生への偏見の存在について、世界平均が23%であるのに対し、日本はわずか13%と調査国17か国中最も低い結果でした。しかし一方井先生は、この結果について、日本では偏見がないのではなく、偏見の存在自体に気づいていない可能性があると指摘されました。先生の研究チームが2018年に行った調査では、看護学や薬学は女性向き、機械工学や数学は男性向きとする意識が根強く存在し、不平等的態度を持つ人ほどこうした傾向が強いことが明らかになっています。
2. なぜ女性は理系から「漏れて」しまうのか
この現象を説明するモデルとして、「リーキーパイプライン・モデル」が紹介されました。これは、女性が成長段階ごとに理系の道から離脱していく様子を水漏れに例えたものです。幼少期・思春期には理系に対する男性的イメージや周囲の大人の影響が、青年期には理系分野の環境そのものや帰属意識・ロールモデルの不在が、そして労働期には雇用問題やライフプランの困難さ(出産・育児)が、それぞれ離脱の要因になるとされています。
興味深いのは、PISAの調査結果によれば、日本の女子の数学の成績は実際には良好であり、成績差は性別よりも個人差や環境要因による影響が大きいという点です。内閣府の資料でも、小学校の段階では算数・理科が好きな女子は多いことが示されています。にもかかわらず、中学校以降、特に中学2年生から物理分野が加わることで理科への苦手意識が強まる傾向が見られます。「女子中学生は理数嫌いを演じる」という研究報告もあり、こうした現象の背景には「女性はあまり知的でない方がよい」といった社会的風土の影響があると考えられます。

3. 改善に向けて何ができるか
世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数において、日本は148か国中118位と低い順位にあります。特に経済分野の収入格差や政治参画の評価が低く、社会全体としてのジェンダー平等はまだ道半ばです。一方で、男女格差が小さい国ほど理工系に進む女性がかえって少ないという「ジェンダー平等パラドックス」も報告されており、この問題の複雑さを物語っています。
日本では現在、女子大への工学系・情報系学部の新設や、理工系学部における「女子枠」の導入といった取り組みが進められています。また、組織論における「黄金の3割」、すなわちマイノリティの割合が3割に達すると組織文化が変わるという考え方も紹介されました。研究開発においては男女混合チームの方が男性のみのチームよりも特許数が多いという調査結果も示され、多様性のある組織の強みが示唆されました。ただし、これらの施策にはいずれも賛否両論があり、アメリカではアファーマティブアクションが違憲として廃止された地域もあるなど、その時々の最適解を考え続けることが重要であるとのことでした。
一方井先生は、最も大切なこととして、私たちが無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)を自覚することを挙げられました。それは眼鏡のようなもので、ずっとかけているとかけていること自体を忘れてしまうが、基本的に外すことはできないものだと表現されました。思い込みをデータとして可視化し、みんなで議論していくことが、壁を少しずつ下げていくことにつながるのです。
おわりに
本講義を通じて、日本の理系分野におけるジェンダーギャップは、単なる統計上の問題ではなく、社会に根付いた無意識の思い込みや構造的な壁が複雑に絡み合った深刻な課題であることを改めて認識しました。何を学ぶかにジェンダーの違いはなく、誰もが本人の希望する進路を自由に選べる社会の実現に向けて、一人ひとりが自らの思い込みに向き合い、意識を変えていくことの重要性を強く感じました。
