書いて、読んで、書き直す
2026年9月19日(土)から21日(月・祝)までの3日間、北海道大学総合教育棟で、CoSTEP選科B「サイエンスライティング」の集中演習を実施しました。

今回の課題は、科学技術について専門的な知識を持つことを前提としない高校生に向けて、約2,000字の記事を書くことです。
しかし、演習はこの3日間だけで始まったわけではありません。受講生は8月に企画書を作成し、教員からのコメントを受けて記事の初稿を執筆。集中演習には、それぞれがすでに「伝えたいこと」を文章にした状態で臨みました。
そこから3日間、書く、読んでもらう、考える、そして書き直す。その繰り返しを通して、一つの記事を完成へと近づけていきました。

1日目:誰に、何を伝えるのか
初日は、ガイダンスとアイスブレイクの後、「たくさんのわたし・相互インタビュー」から始まりました。
短い時間の中で相手に話を聞き、その人らしさが伝わる約200字の記事にまとめます。同じ人でも、何を質問し、何を選び、どう書くかによって、出来上がる文章は変わります。記事を書くことは、情報を並べるだけではなく、何に注目し、何を残すかを選ぶことでもあります。

(相手の話を聞き、「その人らしさ」を短い文章にまとめる相互インタビュー)
午後には、サイエンスライティングについてのレクチャーに続き、「対象(読者)について考えよう」のワークを行いました。
今回の記事の読者は高校生です。「高校生」とひとまとめにするのではなく、どんなことに関心があり、どのくらいの言葉なら伝わるのか、自分の記事をどんなふうに読んでもらいたいのかを考えました。

(「高校生に伝える」とはどういうことか。想定する読者を具体的に考えました)
その後は班に分かれ、初稿をもとにピアレビューと執筆へ。自分では分かりやすいと思っていた表現も、他の人が読むと疑問が残ることがあります。反対に、自分では気づかなかった記事の面白さを、読み手から教えてもらうこともあります。
2日目:自分の文章を、他者の目で見る
2日目は、「文章デッサン」からスタートしました。
一つの情報を文章からイメージへ、イメージから文章へと変換してみると、同じものを見聞きしても、人によって受け取るものが大きく違うことに気づきます。「書いたのだから伝わる」のではなく、読み手の頭の中に何が浮かぶのかまで考えることが、ライティングには欠かせません。

図版についてのレクチャーを挟み、この日も執筆とピアレビューを繰り返しました。
午後には、普段の班を越えて原稿を読み合うピアレビューも実施。テーマも専門分野も異なる受講生から意見をもらうことで、「ここが分からない」「ここをもっと知りたい」「この部分が面白い」といった、それまでとは違う反応が返ってきます。
ピアレビューでもらった意見をすべて取り入れる必要はありません。何を残し、何を変えるかを決めるのは書き手自身です。 他者の視点を受け取りながらも、自分がこの記事で一番伝えたかったことに立ち返ります。

書くことから少し離れる「カフェルーム」
集中して文章と向き合う3日間。少し頭を休めたいときには、カフェルームを利用しました。
飲み物やお菓子を囲んで雑談したり、壁に掲示された他の受講生の記事を読んだりする時間も、文章を考えるための大切な時間です。
カフェルームには「ことばの木」も設置しました。3日間で気になった言葉、初めて知った言葉、心に残った言葉を付箋に書いて貼っていくと、時間が経つにつれて枝いっぱいに言葉が増えていきました。


(出会った言葉を集めた「ことばの木」)
3日目:自分の記事を完成させる
最終日の午前中も、最後まで執筆とピアレビューが続きました。
企画書から始まり、初稿の ver1、1日目の ver2、2日目の ver3 と改訂を重ねてきた記事は、正午に完成稿 ver4 として提出されました。
テーマは、AI、データサイエンス、身体イメージ、南極、薬、肌、ダイビング、界面、量子力学などさまざまです。しかし、どの記事にも共通しているのは、専門的な内容をそのまま並べるのではなく、「高校生に何を持ち帰ってもらいたいのか」を考え続けたことです。

(締切直前まで文章を読み直し、完成稿を仕上げます)
午後には、この3日間で得た学びを班ごとに「ライティング虎の巻」として整理しました。
「誰に伝えるのかを考える」「一番伝えたいことを見失わない」「他の人に読んでもらう」「削ることを恐れない」。完成した記事だけでなく、どうすればより伝わる文章になるのかという試行錯誤そのものが、3日間の成果です。

最後は一人ずつ、3日間を通して得たことを短い言葉で発表しました。同じ課題に取り組んでいても、何を難しいと感じ、何に気づいたのかは一人ひとり異なります。その違いを共有して、集中演習は終了しました。

「書く」ことは、一人だけでするものではない
実施後のアンケートでは、事前の企画書について「非常に助けになった」が58.8%、「助けになった」が23.5%となり、8割以上が執筆の助けになったと回答しました。また、3日間の作業量については76.5%が「ちょうどよかった」、23.5%が「やや多かった」と回答しています。
自由記述からも、ピアレビューを通して、自分では気づかなかった読み方や考え方に出会ったことや、読者を意識して文章を書くことの重要性に気づいたことがうかがえました。
企画を立て、一人で初稿を書くところから始まった記事は、3日間にさまざまな読み手と出会い、何度も姿を変えました。
文章を書くことは、一人で机に向かう作業でもあります。しかし、誰かに伝える文章は、読み手との間で磨かれていくものでもあります。
今回完成した記事と、そこに至るまでの試行錯誤が、これから受講生それぞれが科学技術コミュニケーションを実践していく際の一つの土台になればと思います。
