実践+発信

霊と スピリチュアルビジネス構造

2010.3.31

著者:櫻井義秀 著

出版社:20090500

刊行年月:2009年5月

定価:740円


 新興宗教の勧誘といえば、警戒して身構える人が多いだろう。しかし、「スピリチュアルな体験をしてあなたの心を癒しませんか」と誘われたとしたら・・・。「テレビでもスピリチュアルカウンセラーをよく見るし、最近身も心も疲れているしなあ」と誘いに乗る人も多いのではないだろうか。

 

 

 本書では、人々の不安や癒しを利用した商売を「スピリチュアル・ビジネス」と名づけ、その実態を丁寧に解き明かしている。実は、宗教団体が宗教の看板を外し、その教説や儀礼を商品化して金儲けに特化したものがスピリチュアル・ビジネスだというのだ。最初は宗教とは気付かせず、手頃な癒しの場として敷居を低くすることで、従来の布教方法よりも効率的に多くの人々を集めることができるらしい。

 

 

 既存の宗教団体と経済の関係についても詳しく書かれている。できるだけ統計に基づいて分析している視点が新鮮だ。宗教団体の経営は世間で思われるほど楽ではなく、年々厳しさを増している。この現状は、スピリチュアル・ビジネスを起こす側の動機の一つになっていると言えるのではないか。

 

 

 最近では、スピリチュアリティのシェアを既存の宗教団体から奪い取ろうという動きも活発で、その一例として「すぴこん」が紹介されている。「癒しとスピリチュアルの大見本市」と銘打ったイベントのことだ。この「すぴこん」の様子が突撃レポートのように描かれているため、とても興味深く読むことができ、読者がスピリチュアル・ビジネスとは具体的にどんなものかを理解する助けになる。

 

 

 著者はスピリチュアル・ビジネスのすべてを否定しているわけではない。ヒーリングが気晴らしや娯楽にとどまるうちは、問題ないだろう。しかしそれに囚われ、のめりこみ過ぎると、「癒し」が癒しでなくなってしまう。スピリチュアルな市場には規制の手が届きにくい。資本主義社会において、ヒーリングにのめり込む人々を食い物にして金をむさぼる業者が出てくるのは不思議なことではない。

 

 

 どうして医学や科学が高度に発達した現代社会にスピリチュアル・ビジネスが流行るのか。その問いに対して著者はこう答える。科学技術が発達したからこそ、治ってあたりまえ、できてあたりまえ、幸せになってあたりまえ、と人々の欲求水準が高くなる。それにつれて、欲求が満たされず傷つく人も増えてしまう、というのだ。科学は決して万能ではない。にもかかわらず、人々は科学に多くを期待しすぎ、裏切られることで不満や不安を募らせる。最近、いかにも科学的であることを装って人を騙す疑似科学を悪用した商売が問題になっている。人々の科学に対する過度な期待がその背景にあるのではないか。

 

 

 悪意をもったスピリチュアル・ビジネスから自分の身を守るためには、宗教や文化に関する知識、人間の認識や価値判断の傾向、実際にリスクを避けるための対処法を知ると同時に、批判的思考方法を身につけるのが有効だ。著者はこれを「思考の護身術」と呼び、子どものうちから教えるべきだと述べている。だが残念ながら、学校教育の現場ではなかなか学ぶ機会がないのが現状だ。多くの大人たちが本書を読み、著者の警告に耳を傾け、ぜひ身近な子どもたちに「思考の護身術」をわかりやすく伝えてほしい。そう願ってやまない。

 

 

鳥海亜哉(2009年度CoSTEP選科生,大阪府)