2017年5月13日、私は不安に苛まれながら、開講式当日を迎えていました。
というのも、私は、国家公務員ですが、現在、大学に出向し文系の大学教員をしています。表には出さないようにしていましたが、内心では、理系で、かつ、意識の高い学生が集まるCoSTEPでうまくやっていけるのか不安がありました。しかし、その不安は全くの杞憂に終わることとなりました。
1 文系が受けて大丈夫?
CoSTEPでは、冒頭の講義で、専門家と一般市民とのコミュニケーションの手法について、事例を交えて詳しく解説が行われます。「そうか、知らなくても議論に参加することが大事!」私は大きく背中を押された気持ちになりました。
そして、知らないことは、むしろ強みに変わりました。選科Bでは、3日間をかけて、1つのライティングを書き上げることになります。そこでは、専門知識がない人にどうやって興味を持ってもらうのかというのが、まさにホットイシューだったのです。そのため、互いに文章を読み合うピアレビューが繰り返されるわけですが、文系である私は、理系の方には当たり前でも一般にはなじみにくい用語や表現を指摘することで、相手の文章のブラッシュアップに貢献することができました。科学技術コミュニケーションには、知識は必要ありません。必要なのは、幅広く関心を持つアンテナと探求心でした。
2 社会人が受けて大丈夫?
社会人の受講が全く問題ないことは、歴代の受講生が繰り返し証明しています。
私は、国家公務員として政策立案に携わってきましたが、科学技術の社会への応用という意味では、行政がどのように運営されているかという知識も必要です。それぞれの人間が経験と知識を持ち寄ることで、より良い科学技術コミュニケーションができるということを、実感を持って理解できました。
3 大学教員が受けて大丈夫?
卒業生には多くの大学教員がいますし、本年度も全国から複数の教員が参加しています。むしろ、他分野の研究者と交流できる大変貴重な機会を得ることができ、教員だからこそのメリットも大きいと思います。
また、講義を受けることが、すぐに仕事に役立つのも大きなメリットです。というのも、CoSTEPでは、選りすぐりの講師陣による講義が20回以上にわたって展開されます。プレゼンの方法から話し方、アクティブラーニング的な場の作り方など「うまい!」と思わせる講義がたくさんありました。また、講義を聴く立場になると、講師の立ち居振る舞いや話し方がどのように受講者に影響を与えるかがよくわかります。私は、気づいたことはすぐに次の自分の授業に取り入れて、実際に活用していました。
4 最後に
私にとって、CoSTEPで10数年ぶりに「学生」という立場で勉強することは、本当に新鮮な経験でした。そして、社会人・学生を問わず、同じ問題意識をもった同志たちとフラットな立場で話し合うことが、いかに楽しいのかを再発見できました。本年度の選科B受講生の絆の深さは、受講生専用サイトに掲載されている2017年度の成果発表会の様子を見ていただければ、きっとお分かりいただけると思います。
社会人にとっては、敷居が高いように見える大学での勉強ですが、一歩踏み出せば、学生の頃に戻って純粋に議論を楽しんでいる自分がいます。あなたも、この春、少しだけ勇気を出してみませんか?
荒川 渓(選科B)
北海道大学公共政策大学院