「記憶の部屋」は研究者の部屋をVRと従来のカメラ、そして短文で表現したコンテンツです。その目的は「論文としてまとまった研究成果」「確定した知識としての科学」といった固い科学観とは違う、研究の世界を記録し発信することにあります。ライティング・編集実習とメディアデザイン実習が協働で実施するこのプロジェクトも今年で3年目、4部屋目の作成となりました。昨年に引き続き、VRはパノラマ写真家の横谷恵二さん、スチル撮影は中島宏章さんです。
企画と準備
今年の取材対象者は、メディアデザイン班が選びました。これまで文学・農学・理学の研究者の部屋を制作したので、それ以外の部局から選ぶという制約があります。初回で9名、2回目で3名の候補に絞り、現地下調べも行ったうえで地球環境科学研究院の気候学者、佐藤友徳さんが選ばれました。選定のポイントは、「研究性」「個人性」「歴史性」の3点です。研究性とは、その研究者の研究が何であるかが部屋から見えることです。個人性は、個人の趣味志向や師弟・学生関係等が見えること。そして歴史性は、その研究者や研究分野、研究室の歴史が見えることです。
(佐藤 友徳さん。手にしているのは恩師から贈られた絵本)<撮影:中島 宏章>
取材・撮影
取材第1回は1月10日。趣旨説明を佐藤さんに行い、部屋を見せて頂きました。そしてどのようなアイテムがどの場所にあるかをなるべくたくさん確認し、その概要についても簡単に佐藤さんに伺います。VRコンテンツにするのは20アイテム前後ですが、なるべくたくさんリストアップし、本取材であらためてお話を詳しく伺うためには必要な作業です。360度撮影担当の横谷さんは、部屋の確認し、どの位置にカメラを設置するか、レンズから壁までの距離はどれくらいかと確認し、本撮影に備えました。
(地球環境科学研究棟のロビーに集まったメディアデザインメンバーとライティングメンバー)
(佐藤さんに資料をみせていただくメンバー。モノがありそれを一緒に見ることでコミュニケーションがスムーズに進みます)
(居室以外もVR化するとおもしろい場所がないか確認。実験器具が置かれている「水槽室」にもご案内していただきました)
第2回目、本番は2月3日。ライティングメンバーが取材をし、中島さんがその様子を撮影している間、メディアデザインメンバーと横谷さんは別室2室でVR用画像を撮影しました。その後、インタビューが終え、全員で居室にあるアイテムに関するインタビューを行いました。エピソードはもちろん具体的な5W1H情報も必要です。そして最後に居室のVR撮影を行いました。
(居室で佐藤さんにインタビュー)<撮影:中島 宏章>
(360度撮影をする横谷さん)
道立近代美術館と連携
奇しくも道立近代美術館では1月25日から3月15日までの期間、「北海道151年のヴンダーカンマー」展が開催されていました。『記憶の部屋』もヴンダーカンマーをコンセプトの一つにしています。なんらかの形で連携できないか、と打診したところ、快諾していただき、3月1日から15日まで、ロビーにて展示をすることになりました。
(道立近代美術館の「ヴンダーカンマー展」では北大の所蔵物も多数展示されていました)
(現地確認。どこに展示しようか・・・と考える担当教員と受講生)
急遽決まった展示のために、パンフレットを作成することになりました。ロゴデザインをしていただいた岡田 善敬さんに今回もお願いしてこれまでの部屋と合わせて『記憶の部屋』を紹介するパンフレットができあがりました。
(校正作業をするスタッフ)
制作・公開
ライティング班はVRコンテンツに入る前の導入文と、VR内で表示されるアイテムの解説文を担当しました。導入文は、読んだ人がまるで部屋を覗いているかのようなイメージを喚起させつつ、すべてを詳細に説明刷るのではなく謎や期待を残す文章を目指しまます。説明文は150字と短く、その中で具体的事実を含めつつ、無味乾燥ではない文章にしなければなりません。これらはこれまでライティング実習で書いてきた書評や解説記事とはまた違う方向性のライティングです。また、これらと並行して、佐藤さんのインタビュー記事を「いいね!Hokudai」用に執筆し、掲載しました(※成果紹介(2)~「いいね!Hokudai」~参照)。
メディアデザイン班はライティング班からのテキストを画像化してVR空間に埋め込み、部屋を再現しました。完成したVRは、CoSTEPウェブサイトにて公開しました(佐藤さん: クラウドの部屋)
近代美術館での展示は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、近代美術館自体が閉館となったため、残念ながら中止となってしまいました。しかし何らかの形で今後展示を実現できればと考えています。