私はディレクターとして札幌のラジオ局に所属しています。
今年で54歳になりますが、25年以上マスメディアの中にいながら、今まで報道や コミュニケーションについて深く学んだことがなく、個人的な好奇心もありCoSTEPを受講しました。他の実習は名前である程度活動内容が想像できる中、どんなことを するのが全くわからないことに逆に興味を惹かれ、あえて深く調べることなく 札幌可視化プロジェクト実習を志望しました。
私以外はいずれも学生。自分の歳の半分にも満たない仲間と席を並べ、サイエンスと アートを学ぶ1年が始まりました。2019年度の主な活動は、7月に開催された「テオ ヤンセン ワークショップ」、9月に行った「あいちトリエンナーレ アートツアー」、2020年1月に江別蔦屋書店で実施した展示「ヒト、トナリ」です。
詳しい内容は割愛しますが、テオ ヤンセン ワーク ショップでは「アートにできること」、あいち トリエンナーレ アートツアーでは「伝えることの 大切さ」を学び、ヒト、トナリでは新たな科学技術 コミュニケーションの可能性を感じるともに、 自分たちの課題、未熟な部分とも向き合うことになりました。
可視化の中で個人的に大きな体験は、若い世代の 成長の速さを目の当たりにしたことです。私は他の 5人に比べ、社会経験があり、クリエイティブな発想も 負けていないと意気込んでいましたが、実習が進むに 連れ、彼らの変化の早さにいつも驚かされました。 先月体験したこと、先週議論したこと、さっき気づいた ことが、即座に自分の意識にフィードバックされていく。 私が30年間で培っきた感性を易々と吸収し、 猛スピードで追いつき、この瞬間にも抜き去ろうとしている。そんな仲間たちを眩しく、 口惜しく思う自分を発見したのは衝撃で、ある意味人生で最大の気づきでした。 今でもそのことは、自分の思索、実践のエネルギーになっています。
そんな思いが交錯していたのが、修了式での成果発表「ヒト、トナリ、カタリ」でした。 前日夜まで思い悩んだ末、準備を全て白紙に戻し、照明、音響効果はなし、スライドは タイトル1枚のみ、ステージで車座になり、この1年の自分の変化を本音で語り合う、 というものです。科学技術と直接の関係は見えませんが、多くの社会問題に通底するのは 対話の不全と多様性への不寛容ではないか。自分を曝け出した、真剣な言葉に、 それを乗り越える鍵があるのではないか。この発想から発表に至るまでの十数時間が、 この1年の最も大きな一歩であり、これが札幌可視化プロジェクト実習の最後の実践と なりました。
科学とアートを学び、考え、いつしかその先に手を伸ばし、 アートそのものの一端に触れることができたかもしれない、と思えた1年でした。 本科の受講を終えても、私たちは札幌可視化プロジェクト実習班です。 これからもそれぞれの活動の中で、本気のプロジェクトを推進していきます。
坂田 太郎 (本科「札幌可視化プロジェクト」実習)
ラジオディレクター