実践+発信

選科A活動報告「世界から「におい」消えたなら「におい」とこの未来(さき)を考える~」

2020.10.2

選科A 「目指せ!サイエンスコミュニケーションで流行語大賞班」

石川 果奈、林 航平、橋本 千秋、田中 萌奈

最近「におい」楽しめていますか?新型コロナウイルス感染症の流行によるオンライン化や外出自粛によって私たちの生活は一変しました。それによって、「におい」を嗅ぐ機会が減り、「におい」の経験が不足してきています。もし「におい」の経験が不足した状況が当たり前の世界になってしまったら?――こう考えた私たちは、これからの「におい」との関わり方を考える20分間のオンラインイベントを企画・実施しました。本記事では、テーマ・目的設定、イベント内容、アンケート結果を報告した後、私たちがイベントを通して学んだことをお伝えします。

イベントポスター・石川 果奈 作
目的の設定 ~コロナと共に生きる時代に語りたいこと~

私たちは、オンライン化や外出自粛などの生活の変化で「におい」の経験不足が生じていることに気づきました。この状況が続けば、知らぬ間に「におい」の経験不足が進み、そもそもその変化や影響について議論することができなくなってしまうと考えました。「におい」の経験不足が当たり前になってしまう前に、「これからの『におい』との関わり方」について語り合いたいと考え、今回のイベントでは以下の3つの目的を設定しました。

(1)オンライン化や外出自粛により、「におい」の経験値が不足した状態になることを知ってもらうこと

(2)「におい」の経験値が、「におい」の感じ方の個人差や「におい」と記憶・感情の結びつきに影響を与えていることを知ってもらうこと

(3)コロナと共に生きる時代において、「におい」の経験不足によって生じる日常生活の変化に気が付き、「におい」との関わり方を考えられるようになること

イベント内容 〜楽しい!双方向的!そんなイベントを目指して〜

ただ科学的な知識を提供するだけでなく、「楽しく双方向性をもたせたイベントにしたい」という想いが班内にありました。そこで、今回のイベントでは参加型のアクティビティを多く取り入れたり、オンラインならではの特徴であるチャットや投票機能を活用したりして、参加者と双方向なコミュニケーションをとれる構成にしました。

1. 導入

まず、司会の石川による趣旨説明から始まりました。なぜ私たちが「におい」との関わり方について共に考え、語り合いたいのかという想いを伝えるためです。そして、チャット機能を活用して、目的(1)の「におい」の経験値が不足している状況であることを参加者と共有しました。

2.アクティビティ①「おかんの好きなにおい」

次に、目的(2)の「におい」の経験値が「におい」の感じ方の個人差や「におい」と記憶・感情の結びつきに影響を与えていることを体感してもらうために、オリジナルの推理ゲームを実施しました。

ルール説明の際に披露したショートコント「おかんの好きなにおい」。参加者をゲームの世界に引き込みました!

このゲームでは、最初に6名の参加者を募り、あるお題にまつわる「におい」について自由にお話しいただきました。他の参加者には、その会話をヒントにお題は何かを推理していただきました。6名の参加者は、お題にまつわる「におい」の特徴や、「におい」との思い出を語ってくださいました。

オリジナルゲーム「おかんの好きなにおい」のルール説明

Zoomの投票機能で答え合わせをすると・・・ほとんどの参加者が見事に今回のお題である「消毒液」を当てることができました!

ゲームの投票結果

3.アクティビティ②「コーヒーのにおい」

続いてのアクティビティも、感覚的に楽しみながら目的(2)を達成するためのものです。参加者には、事前にコーヒーをご用意いただき、「におい」を嗅いでもらいました。そして、その「におい」から感じたことをチャットにコメントしていただきました。

コーヒーの「におい」を嗅いだ参加者からは、「父さん」「学校の給食」といったコメントがありました。「におい」の感じ方は十人十色ですね!

これまでの2つのアクティビティの内容を「当たり前だ」と感じる方も多くいるかと思います。ですが、これらのアクティビティの成立には、お題の「におい」を経験していること、その「におい」が記憶や感情と結びついている必要があります。そして、「におい」の感じ方の個人差があるからこそみんなで面白く体験できるのではないでしょうか?

4.事例紹介~「におい」の経験値~

「におい」の感じ方の個人差や「におい」と記憶・感情の結びつきが、「におい」の経験値によるものだということを、学術的な知見をもとに複数の事例を紹介しました。

5.まとめ~「におい」とこの未来(さき)を考える~

「におい」の経験が不足した世界とは、どのようなものなのでしょうか?参加者に目的(3)の「におい」の経験不足が及ぼす日常生活への影響、これからの「におい」との関わり方についてチャットにコメントしていただきました。「ガスのにおいに気がつけないと危ない」や「将来の思い出に関わると思うと、においが大事に思える」といったコメントが見られ、私たちがイベントで話した内容をもとに考えてくださったようです。

アンケート結果

イベント後、アンケートへの協力をお願いしたところ、半分以上の参加者からご回答いただきました。結果の一部とその考察を以下に示します。

1. イベント満足度や「におい」に対する意識に関して

アンケートにご回答いただいた9割以上の参加者からは、「満足」とご回答いただきました。自由記述では「楽しく参加できた」というコメントが多く見られました。2つの参加型アクティビティに関しては、大半の参加者が目的(2)を体感できていたことから、効果的なアクティビティであったことが伺えました。また、「今回のイベントに参加して、今後『におい』を意識してみようと思いますか?」という設問に対しては、次のグラフのような結果が見られ、参加者の「におい」に対する意識が向上したと考えられました。

2. 「におい」の経験不足が及ぼす日常生活の変化に対する意識についてに

「においの経験不足が長期化することは個人的、社会的に良いこと、悪いことがあると思いますか?」という質問に対して、約6割の参加者が「良いことも悪いこともある」と回答しました。この質問の理由を自由記述してもらい、その回答をテキストマイニングで分析しました。テキストマイニングとは、文字列を単語や品詞などの最小単位で区切り、出現頻度を分析する方法です。図中の文字サイズが大きいほど頻出単語であることを表しています。

最後に 〜イベントを通して学んだこと〜

CoSTEPを通して出会ったメンバーと共に作り上げた、初のオンラインイベント。その過程には、たくさんの気づきや学びがありました。イベント後の班内での振り返りでは、次のような意見があがりました。

  • 異なる分野のメンバーが集まって、1つのイベントを作り上げていく過程で、様々なアイデアが出ました。自分にはない視点を他のメンバーから学ぶことができ、とても刺激的でした。
  • 「なぜこのアクティビティをやるのか?」「なぜこの説明をするのか?」というように、イベントを構成する要素の1つ1つに自問自答することが大事であると学びました。
  • イベントの最中に通信状況が悪化し、進行に一時不具合が生じました。このような事態を想定し、あらかじめ対策を考えておくべきだということを学びました。今後オンラインイベントを企画するとき、この反省を活かしたいと思います。
  • 対面のプレゼンテーションと違い、オンラインでは、お客さんとの意思疎通や相互理解が難しいことを学びました。一方で、チャット欄の活用が、この課題の解決に有効であることも理解しました。
  • 講師を招かない場合の科学技術コミュニケーションでは特に、科学的な知識を深く幅広く持つことが大前提として必要であること、さらに、実際にお客さんに伝える際には、正確にわかりやすく、また楽しく理解してもらえるようにかみ砕くことが必要であると学びました。

今回のイベントで得た学びを、CoSTEPでの今後の学び・実践、そして各々の科学技術コミュニケーション活動に活かしていきたいと思います。イベントの企画から実施まで支えてくださったCoSTEP関係者の皆さま、当日イベントにご参加くださった皆さま、ありがとうございました。

目指せ!サイエンスコミュニケーションで流行語大賞班メンバー

本記事は、2020年8月30日(日)に実施した2020年 選科Aオンラインサイエンスイベント「これから/どこから」の報告記事の1つです。CoSTEPの選科Aコースでは、全国各地の選科A受講生が札幌に集まり、対面でのサイエンスイベントをいちから作り上げる3日間の集中演習を行っています。今年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、企画から実施まですべてオンラインでの開催となりました。19人の受講生が4グループに分かれ、計4つのイベントが行われました。以下のリンクより、他の活動報告もぜひご覧ください。

・選科A活動報告「サイエンス総選挙2020 〜もしも定額研究投資金が給付されたら〜」 → こちら
・選科A活動報告「コロナで変わる身だしなみ ~それはマスクから始まった~」 → coming soon
・選科A活動報告「納豆と、旅する 〜新たな時代に向き合う世界の果て〜」 → coming soon
・選科A活動報告「世界から「におい」が消えたなら~「におい」とこの未来(さき)を考える~」(この記事)