実践+発信

[芸術祭選択実習02] 岩野範昭 |《Extreme Data Logger》による世界の新しい切り取り

2021.3.15

SIAFラボの『Extreme Data Logger』というデジタルデータを使った都市と自然を繋げる取り組みを鑑賞しました。表現されたものはIotとアートの融合による文字通りの都市と自然の新しい見え方でした。その中で印象的だった作品は、まずは私自身幼い頃から触れていた除雪車両に関するもの達です。

『SNOW PLOW TRACE LCD version』では車両に付けられたGPSが描く札幌市の除雪作業の軌跡でした。それはリンパ液が流れる様で冬の都市免疫系にも感じられました。また、『雪堆積場タイムラプス』は長時間繰り広げられる固定カメラの画像を繋ぎあわせたものです。その排雪作業の雪捨て場のフィルムからは、繰り返される規則的な姿からミニマルな不思議な実験映画を見たような感覚を呼び起こされました。

また『モエレの雪上絵』では、新雪の上をデータロガーを持って歩いて描く地上絵で、幼い頃の身近な冬の遊びをデジタルを通じて表現されたようでした。そこには自己の眠った記憶がサイバーパンク感覚で再生される新鮮な驚きもありました。

『雪と距離についての習作』では、中谷宇吉郎先生の『雪』の一節に照合されたデータロガーの作品でした。中谷先生とSIAFラボの1世紀越えのコラボレーションで、詩的な言葉とデジタルロガーのフェティッシュさが絡み合う美しさにしびれました。

 また、これらは私にとってはある感覚にも似てました。それはベンヤミンのパサージュだったり、また今和次郎の考現学に通じるものでした。集積された網羅されたものやことが、社会の新たな姿を表出するように、データロガーによって今まで感得できなかった何かを新たに提示されたようでした。

 除雪、雪という北海道人にとっては切ってもきれないことをデータロギングによって新たに分節化して編集し意味を立ち上げていく。そもそも情報の姿は多様であり見るものによって様々にエディットされて新しい姿をみせられると考えます。その点ではものやことは、いつも多様性をはらんでいるものです。そのあらたな可能性の萌芽の現場をデジタルロガーと北海道の冬で体感できたのは嬉しかったです。また他方、デジタルはなんでも表沙汰にしてしまうという、モヤモヤして抱えていたことをあらためて提示されたような気がして考えさせられました。

 科学技術コミュニケーターに向かうものとして、また編集工学を学ぶものとしても、世界の多様性に向き合っていこうと思ってます。そこを目指す中でデジタルの新たな活用をアート作品や、それになろうとするプロセスで出会えたのはラッキーでした。わたしも、Iot、デジタル、アートの活用を、コミュニケーションの場づくりの際の参考にさせて頂きます。またSIAFラボの皆さんの過酷な環境へも果敢に挑む不屈の精神も真似できたらと思います。ありがとうございました。