2011年度最初のサイエンス・カフェ札幌「北大発、金星行き――惑星探査の新しい時代が始まる。」(第57回)は、5月14日(土)、北海道大学理学研究院教授の高橋幸弘さん(宇宙惑星分野)をゲストに迎え開催されました。
ゲストの高橋さんは、金星の「カミナリ」について研究しています。今回のサイエンス・カフェでは、渡辺保史さん(北海道大学 大学院地球環境科学研究院上級コーディネーター)のファシリテーションによって、金星のカミナリをはじめとする惑星や地球の大気現象の面白さと、その謎を解き明かす雷放電観測を利用したユニークなアプローチについてご紹介いただくことにしました。
「カミナリ」と「惑星の大気」という、一見結びつかないように思えるものをどうして研究対象にしているのか、会場の参加者のみなさんは疑問に思ったことと思います。冒頭、その疑問に答える形で、雷雲の形成過程と活動のメカニズム、それらと上空の水蒸気量の関係について、高橋さんに解説していただきました。
また、金星には地球と違ってスーパーローテーションという全球を覆う一方向の大気の流れがあることや、地球と金星の類似点・相違点に留意しながら金星の大気現象を調べることがやがては地球やその他の惑星の大気現象をよりよく理解することにつながることについて、お話をしていただきました。
実は、金星に本当にカミナリが存在するかどうかは、30 年来議論が決着しない大問題であり、これを解明することは、金星の気象を理解する上で大変重要な鍵となるのです。これまでは、金星の大気の諸条件から、研究者の間に「金星にカミナリなど存在するはずがない」という思い込みが強かったり、他の目的の測定装置で「ついでに」測定していたためデータが不十分だったりしたことが、議論を長引かせてしまった理由だと言われています。
そこで高橋さんは、金星探査機「あかつき」に搭載するための、LAC(愛称:ウリボウ)と呼ばれるカミナリ観測専用カメラの開発を手がけました。このような「専用の装置」を開発することで、これまで「ついでに」測定していたデータの質を飛躍的に改善さし、謎の解明にむけて大きく前進することを狙っているのです。
最後に、北海道大学の宇宙研究戦略についてお話がありました。北海道大学の宇宙研究は、異分野の研究者同士のネットワークにより、農学、地理学から雷、オーロラ、惑星、銀河まで多様な専門分野にわたり、惑星探査から、超小型衛星、ロケット、高高度気球、地上望遠鏡までの様々な技術を駆使した、包括的な広がりを見せています。これはまさに、研究のネットワークによって「「天」と「地」がつながりつつある」と言えるのではないでしょうか。
会場は、事前に新聞、テレビ、ラジオでとりあげられたこともあり、超満員の参加者で埋まりました。質問時間には、「カミナリからエネルギーを取り出して発電できないか?」といったユニークな質問の数々に、会場が沸き立ちました。
また、今年度のCoSTEPの受講生も、これから自らがプロデュースするサイエンスカフェの参考にするために見学に来ました。そして運営に当たっては、CoSTEP修了生の安倍さん、上口さん、坪田さん、平田さん、小山さん、木本さん、松原さんの力強いサポートを得ました。
今回のカフェの様子の一部は、北海道大学オープンコースウェアによってインターネット配信される他、放送大学の映像教材としても活用される予定です。