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モジュール4-4 「SOGIESC世界」(11/16)瀬名波栄潤先生講義レポート

2025.1.18

松下 由佳(2024年度本科対話の場創造実習/北大生命科学院)

モジュール4では科学技術の多面的課題について考えていきます。第4回目は北海道大学文学研究院で英米文学をジェンダー、セクシュアリティの観点から研究されている瀬名波栄潤先生です。今回は「SOGIESCの世界:多様性と人権」というタイトルでお話し頂きました。

「多様性」は何のため?

多様性の大切さが叫ばれる今日ではありますが、なぜ大切なのか、考えたことはありますか?植物や動物を例に挙げると、環境の変化に適応して生き延びるために多様性を持つことが有効であるということは直感的に理解しやすいでしょうか。人間が社会をサステナブルに発展させていくうえでも多様性は不可欠だと言います。北海道大学では、多様な人材の活躍の場を目指して、2021年にダイバーシティ&インクルージョン推進宣言が発出されました。

「性」の多様性 ~SOGIESC~

日本語の「性」を英訳すると「セックス」、「ジェンダー」、「セクシュアリティ」といった単語があてられます。これまではいずれも男・女の二分法的に扱われてきました。しかし、現代における性のあり方は多様です。そこで、以下の4つの性を包摂的に説明する言葉として「SOGIESC」が誕生しました。

  • 性的指向(Sexual Orientation)
  • 性自認(Gender Identity)
  • 性表現(Gender Expression)
  • 身体性(Sexual Characteristics/Biological Sex)
性的指向(Sexual Orientation)

端的に説明すると、誰を好きになるか、です。約90%の人は異性のことを好きになる「ヘテロセクシュアル」であり、社会はこの人たちの都合に合わせたものになっています。無意識にあたりまえを作り上げ、ヘテロセクシュアル以外(同性のことを好きになるホモセクシュアルや両方の性を好きになるバイセクシュアル)の人にとって生きにくい社会となっていないでしょうか。ちなみに最近は、「ロマンティックオリエンテーション」という、肉体よりも精神の性愛感情に重きを置いた表現も広がっています。

性自認(Gender Identity)

自分が自分自身をどのように捉えているか、です。社会通念や慣習の中で作り上げられた「男性像・女性像」によって外から「らしさ」を規定されていると同時に、その中で育った私たちは性別によって自分自身でも内から「らしさ」を規定してしまっています。

生まれたときの性と自分の性に対する認識が一致している人を「シスジェンダー」と言います。(ただし、性的指向とは独立していることに注意が必要です。)他方、生まれたときの性と自分の性に対する認識が一致していない人のことを「トランスジェンダー」と言います。これに加えて、身体性に関係なく性自認が男性にも女性にも当てはまらない「Xジェンダー」や、性自認や性的指向が定まっていない「クエスチョニング」、男女の二分法の枠組みに固定されていない「ノンバイナリー」など様々な人がいます。

性表現(Gende Expression)

服装やしぐさを含めてどのようにふるまうか、です。 性表現のトランスジェンダーを表す言葉として「トランスベスタイト」、「クロスドレッサー」があります。趣味として異性装を楽しむ人もおり、異性装者が全員性別違和を抱えた人であるわけではありませんが、トランスジェンダーとして異性装をせずには生きていけない、という生きづらさを抱えた人もいます。娯楽として異性装を楽しむ人がいる一方で、悩み苦しむ人がいることを忘れてはいけません。

身体性(Sexual Characteristics/Biological Sex)

生物学的性を指します。生物学的性は科学的観点ではオスとメスの二つに分けられるとされていますが、実際には、その間には「性スペクトラム」という言葉で表現されるように様々な人が連続的に存在しています。人間の生物学的性ですら明確な線引きはできないのです。

上記の4つはそれぞれ独立していて、様々な組み合わせの人が存在します。性はとても多様であり、流動的なのです。この講義レポートを読んでいる間にも少し自分の中の性が揺れ動いたのを感じた人もいるのではないでしょうか。互いの基本的人権を尊重しあい、共生していくことが大切です。

おわりに

今回の講義では、「存在しているのに、存在していないかのように扱うというのは間違い。多様性を省略することはとても危険だ。」という瀬名波先生の言葉がとても印象的でした。性に限らず、自分が多数派に属していると少数派の考えは見えなくなりがちです。また、見ないことで物事を単純化できるということもあるのかもしれません。しかし、皆にとってより良い社会を発展させていくためには、少数派の意見を細やかに汲み取っていくことが不可欠です。自分の言動が誰かの意見を軽視するものとなっていないか、常に意識し続けられる人でありたいと思います。