実践+発信

日置幸介さんから質問への回答をいただきました68サイエンスカフェ札幌

2013.2.27

第68回サイエンス・カフェ 質問カードへの回答

2月17日(日)に開催された第68回サイエンス・カフェ札幌「地震の前に何かが起こる? ―宇宙技術で探る大地のシグナル―」では、参加者の皆さまから、たくさんの質問をいただきました。

(カフェ当日のレポートはこちら:http://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/costep/contents/article/673/)

 

時間の関係から、当日のカフェの中ではお答えできなかった質問について、ゲストの日置さんに回答していただきました。カフェ中に取り上げた質問についても再度お答えいただいていますので、当日の日置さんのお話を振り返りながら、ご覧いただければと思います。

なお、内容が重複するご質問などについては、掲載されていない場合があります。また、質問文の一部を掲載用に書き換えている場合があります。ご了承ください。

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■地震やプレート、固着について

Q.1 太平洋プレートが何の力で動いて(しずみこみして)いるのか。

A.1 プレート運動の原動力の質問ですね。複数ありますが、一番重要なのは重力です。地球の表面にあるプレートは温度が低い分、その下にある熱いマントルより密度(比重)が重いのです。重いものが軽いものの上に乗っているのは不安定ですから、海溝のような割れ目があると重いプレートはマントルの中に自然に沈み込んでいくのです。

Q.2 地層が古くなれば北欧やヨーロッパの様に地震がなくなるのですか。

A.2 地震がないのは、地層が古いのではなく、プレートの境界から遠いからです。地震はプレートの境界やその近くで起こるのです。

Q.3 現在の地震感知はどのように把握されるのですか。

A.3 我が国には様々な種類の地震計が展開されており、国の機関である気象庁が日常的に地震活動の状態を監視しており、それを国民に知らせる仕事を担当しています。

Q.4 日本列島のうち東日本は千島列島を除いて北米プレートの上に乗っていると見てよいのですか。千島列島は、はるか南から来たという事ですか?!

A.4 日本列島は東と西が別のプレートに属しています。東日本が北米プレート、西日本がアムールプレートの一部とする説が有力です。日本列島は、沈み込みに伴う火成活動でできた骨組みに、沈み込む海洋プレートの一部が付着していって形成されたものです。後者としては、西南日本の太平洋岸に広く分布する四万十層群が良く知られており、それらははるか南からやって来たものであることが地質学的な研究から明らかにされています。千島弧は南からではなく東から来て北海道に衝突していると考えられています。

Q.5 プレートが固着していれば、地震前、陸地は海側に引っ張られるように思われるが、なぜ逆に内陸側に押されるのでしょうか。

A.5 太平洋プレートは陸向き(西向き)に動いているのです。ですから日本列島に働く力も陸向き(西向き)です。西の方に日本列島を「押して」いるのです。引っ張る力(張力)は働いていません。

Q.6 北米プレートとユーラシアプレートの境目は地震少ないの?

A.6 違います。北米プレートとアムールプレート(またはユーラシアプレート)の境界に沿って、1960年新潟地震、1982年日本海中部地震(秋田沖)、1993年北海道南西沖地震(奥尻島)などの比較的大きな地震が起こっています。

Q.7 北米大陸はユーラシア大陸と、どんな形でひっつこうとしているの?

A.7 北米プレートとアムールプレート(ユーラシアプレート)のことでしょうか? 日本の近くでは、それらのプレートの境界は日本海の東端を南北に走っており、アムールプレート(ユーラシアプレート)が東日本の下に沈み込もうとしています。ちなみに現在起こっているプレート運動によって北米大陸とユーラシア大陸がぶつかる(ひっつく)ことはありません。

Q.8 十勝沖地震の余効すべりは、うずを巻いているのか。

A.8 十勝地方が海に向かってせり出しており、その両側の地面は十勝地方に向かって動いていますので、うずを巻いているようにも見えますね。

Q.9 固着している海溝プレートと大陸プレートがはがれて戻らなくなることはないのですか?

A.9 固着がはがれるのが地震ですね。プレート境界の固着は、地震のあとしばらくすると再び回復します。いつまでも固着が戻らないという例は知られていません。

Q.10 学校の先生が、プレートがしずんで耐え切れなくなったら、プレートが折れるって言っていたけど、本当に折れるんですか?

A.10 その先生は、沈み込んだ海洋プレートが深さ600 kmあたりに何千万年もの間溜まって、それが時々まとまってマントルの底まで落ちてゆくこと(メガリスの崩落)をおっしゃったのかも知れません。「日本沈没」という映画のなかで、日本列島を沈ませる仮想的なメカニズムとして紹介されていました(実際に起こるわけではありません)。

Q.11 全世界のプレートの動きが測れることは何を基準としているのですか? 天体?

A.11 基本的にGPSで測れるのは相対的な動きだけ(例えば北米プレートからみた太平洋プレートの動きは測れるけど、どちらが動いてるのかは不明)なのですが、適当な仮定を置く(全部のプレートの動きの平均をゼロにしたり、あるプレートが動いていないと仮定するなど)ことによって、絶対的な動きに直すこともできます。

Q.12 固着が強くなったのに、なぜ、プレートの沈み込みは速くなったのか?

A.12 発想の順番を逆にしてみましょう。プレートの沈み込みが速くなったので、見かけ上の固着が強くなったと考えればすっきり理解できるのではないでしょうか。

Q.13 太平洋プレートの動き(速度)がある期間だけ変わるのは固着が弱くなったから? 固着が固くなったから? (プレートの部分・部分で移動速度が1.5倍以上も違うというのは得心し難い。)

A.13 固着が広い範囲で急に強くなったり弱くなったり(断層面の摩擦係数が突然変わる)というのは、プレート運動の変化よりさらに得心し難いことなのです。なので、観測事実を説明するためにプレートの加速という推論になりました。

Q.14 8年間で固着が少しずつ解放されていた現象について、逆に、少しずつ解放しているのだから大地震につながらないようなイメージがあるのですが、これが大地震につながるのはなぜでしょうか? 

A.14 M7地震が六回起こっても、M9地震の千分の六程度にしかなりません。なので、小さい地震で歪を少しずつ解放するのは、大きな地震を回避する目的にはあまり現実的ではないのです。

Q.15 固着域でのひずみを人工的に取り除くことはできないのか?

A.15 プレート境界の深さまで人工的に到達して、潤滑剤を注入する等のことは現在の技術では、極めて浅い特殊な部分以外は残念ながら不可能です。でもそういう発想で基礎研究に取り組んでいる研究者は複数おられます。

■GPSについて

Q.16 GPSは軍用に開発されたと聞きました。有事の際に使えなくなる、又は精度が落ちるということはないでしょうか?

A.16 私が1990年の夏にアイスランドでGPS測量の仕事をしている最中に、湾岸危機が勃発し、GPS測位の精度が急に落ちた記憶があります。でも現在ではGPS以外にもロシアのGLONASSやヨーロッパのGALILEOといった測位衛星システムがあり、最新の受信機はそれらのシステムにも対応していますので、有事の際にGPSだけ精度を落としてもあまり意味がないでしょうね。

Q.17 GPSに何故2種の電波が必要なのですか。

A.17 電離圏での遅延(電波の遅れ)は、位置を測定する際に大きな誤差をもたらします。したがって、それを除くために電離圏遅延を正確に知る必要があります。そのために高精度受信機では二周波を受信できるようになっています。

Q.18 GPSはマイクロ波を出していると聞いたが、高周波、低周波というほど周波数の異なる波を出しているのか。

A.18 実際には同じLバンドの二つの周波数(1.5 GHz, 1.2 GHz)なので、そんなに周波数が違うわけではありません。少し周波数の高いマイクロ波、少し周波数の低いマイクロ波、程度の違いです。

Q.19 電子数の異常以外にGPSで測定できることは?

A.19 測位と電子数の計測以外で最もメジャーなものは水蒸気です。これは可降水量として天気予報の基礎データの一つとして利用されています。他には雪の深さを測ったり、海の満ち引きを測ったりという試みを私の研究室で行っています。

Q.20 GPSによる測定範囲は?

A.20 時間の範囲でいえば、がたがたとゆれる地震動からゆっくりしたプレート運動まで、空間範囲でいえば地球の表面全体と高度数百キロ以下の宇宙空間でも使えます。Q.21の質問にあるように海底でも使えるよう技術開発が進んでいます。

Q.21 海底のGPSとはどんなものですか? また、どうやって測っているのですか?

A.21 プレート境界は海底にあるので、海底の動きを測るのはとても重要なのですが、残念ながら海水が電波を通しません。それでもなんとか海底の動きを測りたいという要求が強く、船とGPS衛星の間はマイクロ波、船と海底の間は音波を使うという、マイクロ波―音波併用方式のGPS測量で海底の動きを測ることが出来るようになりました。日本では海上保安庁や東北大学、名古屋大学が精力的に取り組んでいます。でも陸上のGPSに比べると、費用がかかる上にまだ精度も劣っています。

Q.22 GPS局が太平洋側に多いのはなぜですか。

A.22 そんなことはありません。GPS局は気象庁のアメダスと同様に、なるべく均一な密度で国土をまんべんなく覆うように配置されています。

Q.23 プレートの固着のはがれや電子の多さ等の情報はGPSが観測してからどれくらいの時間で我々に届くのですか。予知するのに利用できるのかどうか。

A.23 国土地理院のGPS網の生データは数時間遅れでウェブからダウンロードできます。なので、一時間前に出る前兆を地震予知に実用化する目的には今のところ使えません。

■電子数の変化と地震との関連について

Q.24 なぜ、直前に電子の数が増加したのでしょうか! 震源と電離層はかなり距離が離れているのに何の力が影響力になったのでしょうか。

A.24 米国航空宇宙局(NASA)のFriedmann Freundという研究者は、歪ませた火成岩から正孔とよばれるプラスの電荷が拡散してくる現象を室内実験で見出しました。実際に地震の前に野外でこのような現象が確認された例はありませんが、地震前に様々な電磁気的な前兆が生じる原因の一つとして有望視されています。たとえば地震前に地表が広範囲に正に帯電すると上空の電離圏電子の分布に変化を与えることもできるのです。

Q.25 オーロラと電子の増加には関係がありますか?

A.25 オーロラの発生に伴って極域の電離圏のE領域(高さ100km付近)で電子が急増することが知られています。また、オーロラによって電離圏に強い電流が流れますので、加熱された大気に内部重力波というある種の波動が励起されて、それが日本まで伝わってくることもあります。

Q.26 おそらく観測回数を積むことによってロバストになると思うが、現状は?

A.26 マグニチュード8台の上の方より大きい地震で、かつ十分なGPSデータが存在する地震については、今のところすべての地震の前に電離圏の電子数異常が生じたことが確認されています。

Q.27 地震の前に動物(カエル、ナマズ、ヘビ等)が騒ぐといわれているが、電磁波を感じているのか否か。

A.27 地表の帯電を感じている可能性があります。また、それに起因する大気中の正荷電エアロゾルが動物の異常行動をもたらすという仮説を提唱している研究者もいます。

Q.28 GPSで異変をキャッチすることのことですが、異変時刻と地震計等の測定値との関連があるのか否か。

A.28 電子数の異常は地震の一時間程前から始まります。地震計は地震がおこったあとの地面のゆれを計測する装置なので、前兆とは関係ありません。

■予知について

Q.29 TECにより地震の予測が可能になると思うが、場所の特定はできるのか? 広すぎるのでは?

A.29 震源のほぼ真上に異常が出るのが、この現象の特徴です。

Q.30 隕石は予知できないか?

A.30 隕石はそもそも小惑星ですから、ある程度大きなものは望遠鏡による観測で軌道を決定できます(軌道の大きさや向きを記述する六個の数値が求められる)。一旦軌道がわかれば、地球に衝突するか否かは計算でわかります。ただし今年2月にロシアに落ちたような小さなサイズの小惑星は暗くて観測が難しいので、それにともなう隕石の落下の「予知」は難しいでしょう。

Q.31 避難する時間が十分得られるような予知は?

A.31 一時間前くらいに地震の予知ができれば、その間に丈夫でない建物から出る等の対策を取ることができて、人的被害の軽減に有用なのではないでしょうか。

Q.32 電子数の異常から地震を予知できるのはだいたい20分前と考えて良いのでしょうか?

A.32 TECの異常はゆっくり始まるので、ただ見てるだけではなかなか地震前に気付くことは難しいかも知れません。今後の研究の重要なテーマですね。

Q.33 巨大地震が起きてから数年内に火山が噴火すると著名な学者が言っておられましたが、予想されますか。いつ、どこで等知りたい。(東日本大震災について―山大との関連あるのか)

A.33 過去の巨大地震は、かならず近傍の火山噴火をその後に伴っていることが知られています。2011年東北沖地震の後は、北方領土の択捉島にある火山が去年の夏に噴火しましたよね。まだ他の火山の噴火が続いて起こる可能性もあるので、今後しばらくは要注意だと考えられます。

Q.34 予知の確率は? もっと上げることが出来ますか。地震学者が予知を間違えて実刑を受けた外国の例もありましたね。

A.34 イタリアのラクイア地震の例は、地震学者が予知を間違えたのではなく、行政の誘導にのって安易に安全宣言を出した地震学者の罪が問われているのです(イタリアの住民も地震学者も予知ができるとは考えていません)。イタリアに限らず大半の地震学者は直前予知に興味がないし、また出来ると思っていない(従って研究もしていない)という事実を、地震学者以外の人があまり認識していないことが問題だと私は思っています。

■二日前の内容について

Q.35 どうして二日前の地震が前兆とわからなかったのでしょうか?

A.35 3/9の地震は前震としての特徴を持った(例えば大き目の余震が数多く起こったこと)わかりやすい前震だったようです。それが3/11以前に前震だということに気付かなかった原因はいくつかありますが、3/9の前震がM7.3と比較的大きかったことも原因の一つでしょう。それが前震なら本震はM9クラスになってしまうからです。地震学者は東北沖でM9地震が起こると思っていなかったのです。

■その他の質問

Q.36 電子数の変化が、偶然の域を出ないとき、科学者としてできることは何か。

A.36 TECの上昇が有意水準を超えない場合ですね。からぶりを恐れるなら報告すべきでしょうし、誤報を恐れるなら報告すべきでないでしょう。実用化を考える場合は、事前に様々な事情を考慮して方針を確定しておくべきです。

Q.37 「なまずが暴れたから」というのはエセ科学だが、いろいろな生き物、ラジオ波、気象現象(オーロラ、…)で予備現象があると、史上何度も主張されて科学的検証にかけられ実証性はないとほうむりさられた。先生の説は科学的に大変面白いが、実証性と実用性は? 説明力は?

A.37 ナマズが似非科学だというのは偏見かもしれません。A.24にあるように、地震前の正電荷の発生で多くの宏観異常現象が説明できる可能性があると思います(地震学者はそう言わないかも知れません)。実証性と説明力は、その考えがレベルの高い学術専門雑誌に掲載されているかどうかである程度客観的に判断できると思います。私が話した内容は、欧州のEPSLという雑誌(前半)と米国のGRLという雑誌(後半)に査読を経て掲載されています(私のHPから読めます)。いずれも地球物理学の専門雑誌としてはレベルの高い雑誌とされています。

Q.38 「今回の研究」をどこかのHPで見ることができますか?

A.38 査読を経た雑誌の論文の形で私のHPにリンクしてあります。英文が主ですが、一部日本語の解説もあります。

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日置さんのHPはこちら: http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~heki/jindex.htm

 たくさんの質問をお寄せくださった参加者の皆さま、そして、その一つ一つに回答してくださった日置さんに感謝申し上げます。ありがとうございました!