2025年10月5日(日)、6日(月)の2日間にわたり、大阪・関西万博会場にて「美術館・科学館選択実践演習:万博」を開催しました。万博におけるアートと科学のアプローチを体験し、未来に向けた万博の特徴や可能性、限界点などについて考える機会として企画したこの実習には、本科、選科集中演習Aコース、選科集中演習Bコース、選科集中演習Cコースから集まった受講生19名と、教員として朴、奥本、福津、古澤の4名が参加しました。
今回の実習では、受講生同士の対話を通して展示のメッセージを読み解き、科学技術コミュニケーションとつなげて考える力を身につけることを目指しました。事前にオンラインレクチャーで万博の歴史や特徴について学習を行った上で、実際に会場を訪れて鑑賞活動を行いました。

1日目:海外パビリオン
初日は、藤本壮介氏が設計した大屋根リング(木造建築としては世界最大級)の上、セルビア館が正面に見える場所に集合しました。11時からのガイダンスでは、藤本氏の建築意図や万博全体の構成について説明を受けました。

「一周約2025メートルの巨大な木造建築『大屋根リング』は、会場デザインの理念である『多様でありながら、ひとつ』を体現しています。日本の伝統的な建築技法と現代的な工法を組み合わせた構造で、木漏れ日や風、木の香りを感じながら歩く体験は、持続可能な社会のあり方や、過去から未来へ続く生命・文化のつながりを身体で実感させました」と、ある受講生は振り返ります。

各国の多様なアプローチを体験
午後からはコモンズB、コモンズCを中心に海外パビリオンを鑑賞しました。特にコモンズCのウクライナ館は、並ぶ価値のある充実した展示内容で、受講生が印象深い体験をしたと語っていました。


ザンビア館の前で、五月女さんとの集合写真を撮りました!
「ウクライナの展示での『国はその文化が息づいている限り生きている』という言葉が印象に残りました。メッセージ性が強く、見せ方によっては受け手を選ぶ内容ですが、店舗のようなレイアウトや来場者にQRコードを読み取らせる導線設計など、足を止めてもらうための工夫が施されていると感じました。自分に何ができるかを考えさせられる展示でした。」


「同じ広さのブースが並んでいるのに、国によって内容や魅力が大きく違うことが印象的でした。音楽を使う、展示の配置、デザインの統一などの工夫で、ここまで差が出るのかと驚きました。」
また、五感を使った展示も印象に残ったようです。
「視覚以外の感覚を使っていたパビリオンが印象に残りました。味覚(飴やキャラメルのお土産)、嗅覚(コートジボワールのカカオの香り)、聴覚(サンマリノの街中で流れる音を聞くためだけのエリア)、触覚(サウジアラビアの映像を見る間、背後の壁から振動が伝わってきました)。視覚に比べて咀嚼に時間がかかるぶん、記憶にも残りやすいのだと感じました。」
夕方からは自由見学の時間となり、受講生たちは思い思いにパビリオンを巡りました。
「イタリア館で展示されていた絵に描かれた伊東マンショは、かつて小倉で過ごしていたことを知り、急に親近感がわいてきました。私が毎日歩いているこの道を彼も歩いたかもしれない……そう思うと、過去への興味が一気に広がっていきました。興味がないことでも、きっかけひとつで心が動く。私は、そんなきっかけを生み出せる人になりたいと思いました。」
2日目:民間パビリオン
2日目は、東ゲートに9時集合。未来の都市の関係企業である株式会社クボタからご提供いただいた優先入場カードにより、スムーズに入場することができました。この日は3つのグループに分かれて、それぞれ異なる民間パビリオンを見学しました。
グループA:対話と建築の力を体感
グループAは、河瀬直美監督が手がける河瀬館『いのちのあかし』を訪れました。
「いろいろな意味で類まれなパビリオンで、とても印象深かったです。その場で選ばれた一般人との対話を見せるという企画自体が斬新で衝撃的でした。最先端の機材による大画面に映し出される話者の『表情や声の揺らぎ』がメッセージやアートとして観客に伝わってきて、それが心にじんわりと響き、結果として、言語化しがたい深い感動が呼び起こされました。」

対話シアターの後は、対話者や関係者の方とのミーティングがあり、質疑応答の時間が設けられました。
「『何をもって成功とするのか?』という質問に対して、『対話を通してお互いが変化し、成長すること』という回答がありました。そこで私は、話者に『話者を経験して、あなたは実際に変化したのですか?』と問いかけました。すると、お二人とも、自分の中で良い変化(成長)があったことを語っておられました。対話を通してお互いが変化し、それが成長につながることが対話の意義なのだと感じました。」

「新しいもの、目を引くものが数多く立ち並び、その消費に追われるような少しあわただしい空気が漂う万博の中で、長い年月自然と対峙してその地域の子どもを受容してきた学校の中はゆったりとした空気が漂っており、どこか懐かしいような、ずっとあの場所にいたいと思わせる空間でした。」

グループB:テクノロジーと想像力の未来を考える
グループBは、NTT館と小山館を中心に見学しました。
「NTT館では、通信技術を使って会場と遠隔地をリアルタイムでつなぎ、同じ音楽や映像を共有できる仕組みが紹介されていました。遠く離れた人々が『同じ瞬間』を共有できることで生まれる一体感が印象的でした。これは単なるテクノロジーのデモンストレーションではなく、『人と人を結ぶ技術』というメッセージを強く感じさせる演出でした。」

小山館では、アートと科学が融合した展示を通して、想像力と技術の関係を考える体験ができました。
「小山館の展示は、デジタルとアナログの境界をあえてあいまいにし、人間の手や思考が生み出す“創造”の力を再認識させるものでした。テクノロジーを効率や生産性のためだけに使うのではなく、人の感性を拡張するための道具として捉える視点に、深く共感しました。」

「デジタルデバイスの光や音、映像が作り出す空間の中で、手描きのスケッチや人の声が混じり合う演出は、まるで“未来のアトリエ”のようでした。科学技術と芸術を分けずに考える大切さを実感しました。」
グループC:暮らしとウェルビーイングを見つめるデザイン
グループCは、パナソニック館とパソナ館を見学しました。
パナソニック館では、体験型の展示が来場者の興味を引きつけました。
「前半は結晶型の端末を持って、室内の指定された場所にかざすと光や音が出る体験を行うエリアで、子どもたちは次々とかざしてとても楽しそうでした。視覚・聴覚・触覚などを利用した体験だったため、記憶に残りやすいと感じました。」

「体験そのものが物語になっており、単なる“技術の見せ場”ではなく、来場者自身が“未来の生活者”として参加できる構成でした。技術と人との関わり方を問いかけるような展示が多く、科学技術コミュニケーションの可能性を感じました。」
続いて訪れた大阪ヘルスケアパビリオン(パソナ館)では、“ウェルビーイング”をテーマに、人が健康で幸福に生きるための社会のあり方を考えさせる展示が印象的でした。

「働き方、地域との関わり、食や暮らしなど、さまざまな切り口で“人と社会の関係”を見つめ直す構成になっていました。体験を通じて、自分の生活や価値観を振り返るきっかけになりました。」
全員で体験:未来の都市パビリオン
午後2時、全グループが「未来の都市」パビリオン前に集合しました。ここは、博覧会協会と12の企業が共同で作り上げたパビリオンで、複数のフロアに分かれた大規模な展示空間です。

今回は特別に、株式会社クボタや川崎重工業など、各企業のキュレーターがご案内くださり、詳しい説明を受けながら見学しました。
「無人の自動運転農機の展示が行われていましたが、農機としての役割だけでなく、地盤が緩い場所でも使用できたり、水平を保てたりするという利点を生かし、農業以外の場面での活用可能性も探っているという話が印象に残りました。」

「来場者の高揚した表情が印象的でした。ワクワクするってこういうことだったんだな、と忘れかけていた感覚を思い出しました。」
振り返り:万博から学ぶ科学技術コミュニケーション
2日間の実習を通じて、受講生たちは様々な気づきを得たようです。
「実物を目の当たりにするインパクトの大切さを感じました。民族楽器の体験やホットチョコレートの匂いは、インターネット越しでは体験できないもので、行った価値があると思わせてくれました。今後科学技術コミュニケーションを行ううえで、スライドや動画も大切ですが、それ以上に五感を生かした展示の重要性を感じました。」


「キュレーションの大切さを実感しました。五月女先生の事前レクチャーや当日の案内がなければ、感じられる情報量はおそらく5分の1だったと思います。今後、博物館に行った際にはガイドツアーに積極的に参加したいし、展示する側になったときには、わかりやすく伝えられる体制をつくりたいです。」

万博というプラットフォームの可能性と課題
「愛・地球博では混雑や待ち時間増大が問題になり、今回も人気パビリオンの待ち時間やトイレの混雑など、運営設計の見積もりや調整に課題があったのではと感じました。イベント本来の趣旨以外の要因でマイナスな印象を与えない工夫も重要だと思います。」

「今回の万博ではチケット購入からパビリオン予約、支払いまでがキャッシュレス化されており、デジタル弱者と呼ばれる人々が取り残されていると感じる場面もありました。万人が利用できるよう、様々な障壁を越える多角的な対策が必要だと思います。」

「初期から建設費高騰や準備遅延などネガティブな報道が続き、開催が近づくと『インスタ映え』を狙った発信が増えました。こうした情報の振れ幅は、万博が本来目指す“未来社会の実験場”という意義をどれだけ伝えられたのかを考えさせます。メディアやSNSが作るイメージと実際の体験のギャップを意識し、思想や構想力をどう伝えるか、科学技術コミュニケーションの視点から考える必要があると感じました。」
こうした批判的な視点を持つことも、科学技術コミュニケーターとして大切なことです。良い点を学ぶと同時に、課題や改善点を見出し、より良いコミュニケーションのあり方を模索する姿勢が求められます。
おわりに
2日間という短い期間でしたが、受講生たちは海外パビリオンから民間パビリオンまで、実に多様な展示を体験することができました。万博という特殊な空間で繰り広げられる、国や企業による未来の提案。その中には、科学技術コミュニケーションのヒントが数多く詰まっていました。
「『実物』を『現地』で感じることは、他の何にも代えがたい経験でした。現場の空気や出展者と観覧者双方の熱意、各パビリオンから感じられる匂いなど、行かなければ感じられないものが多く存在するのだと実感しました。」
展示の方法、対話の技法、ストーリーテリング、体験デザイン、そして何より「未来を語ることの意味」。これらを実地で学べたことは、今後のCoSTEPでの学びや修了後の活動に大きく活きてくることでしょう。
今回の実習にご協力いただいた、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(万博協会)の皆様、五月女桂子様、株式会社クボタ様、河瀬館の対話者および関係者の皆様、NTTパビリオンの皆様、小山館の皆様、パナソニック館の皆様、大阪ヘルスケアパビリオン(パソナ館)の小沢館長をはじめとする関係者の皆様、そして各パビリオンでお世話になったすべての皆様に、心より感謝申し上げます。
最後に、参加した受講生の皆さん、2日間お疲れ様でした!
