佐野 友宇子│2025年度 本科 対話の場の創造実践演習
公衆衛生医師
育休中にCoSTEPを受講することになった私は、月に10回くらいは「受講しなければよかった」と思っていた。夜間授乳や夜泣き対応で寝不足のまま講義に参加することも多く、正直つらい日も少なくなかった。それでも、それより少し多い回数、12回くらいは「やっぱり受講してよかった」と思っていたのも確かなのだ。後悔と満足を行き来しながら進んだ10か月だった。
私がCoSTEPを知ったきっかけは、前年度にサイエンスカフェの講師として登壇したことだった。公衆衛生医師は行政で市民に健康に関する専門知識を伝える役割を担っている。しかし行政は「市民に伝える」ということをかなり不得手にしているように感じていた。
そんな中でCoSTEPのサイエンスカフェに登壇し、主催者や受講生がイベント参加者に伝えようと必死になっている姿を傍らで見た。「行政に足りないのはこれだ」と思った。そして、いつか受講してみたいと考えるようになった。
その後育児が始まり、生活は一変した。充実している一方で、人とのコミュニケーションや自分の時間に向き合うことに飢えている自分にも気づいた。そんなときCoSTEPのことを思い出した。本科生として受講できる機会はこの先もうないかもしれない。育児が落ち着くのを待っていてはチャンスを逃すと思い、受講を決意した。
CoSTEPでは多くの学びを得たが、特に印象に残っているのは、「誰に伝えるのか」という対象を定めること、そしてコンセプトをぶらさないことだ。その二つを考え抜いたうえで伝える方法を組み立てるには、想像以上の労力が必要だということを思い知った。

実践演習ではサイエンスカフェの企画案が直前まで何度も没になり、心が折れそうになった。修了式前日のリハーサルでは激しいダメ出しにあい、その夜は徹夜で発表を作り直すことにもなった。心身を削り肌の調子が悪くなることもあったが、今となってはどちらも良い思い出である。
新しい出会いもあった。普段の生活では出会わなかったであろう様々な分野の若く優秀な受講生たちと、頭を突き合わせてああでもないこうでもないと議論した時間は得難い経験だった。この歳になって本気で叱ってくれる情熱的な教員たちに出会えたことも嬉しいことだった。
育休中に知的活動を続けられたことは、私にとって想像以上に大きな意味を持った。講義や演習で新しい知識や発見に触れ、実践演習で頭を振り絞って企画を考える時間は、私の脳を満たしてくれた。そしてそれが育児のエネルギーにもなっていた。

CoSTEPの時間を、休養に充てることもできただろう。けれどそうしていたら、今ほど楽しくも充実もしていなかったと思う。4月の復職を前にして、「イベントの企画来い!」とも思えていなかっただろう。
振り返ると、もっと選択演習に参加したり、紹介された資料に向き合ったりもしたかったという心残りはある。それでも、去年の今頃、願書を出すかどうか迷っていた自分に会えるなら、きっとこう言う。
とりあえず出してみな!
少なくとも私にとって、この10か月はそう言える時間だった。
