筒井菜月(2026年度本科受講生/対話の場の創造)
モジュール1-4「コミュニケーションを改めて考え直す」では、北海道大学大学院教育推進機構リカレント教育推進部 特任教授/CoSTEPフェローである種村剛先生にご講義いただきました。種村先生は2014年のCoSTEP10期の先輩でもあり、2015年から7年間にわたってCoSTEP専任スタッフをされていました。また、種村先生は2026年に出版されたCoSTEPの教科書である「科学が伝わる技法」の著者の1人です。本講義では科学技術コミュニケーションの理論をご説明してくださいました。

1.科学技術コミュニケーションとは何か
科学技術コミュニケーションを学ぶ上で、まず科学技術コミュニケーションについて理解し、説明できるようになることが重要です。そこで本講義では、まず科学技術コミュニケーションを「自然や科学技術を対象とした、特定の目的を達成するためのコミュニケーション」と定義しました。科学技術コミュニケーションの目的・機能として、以下の7つが挙げられます。
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関心喚起・文化的享受
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教育・啓蒙・行動変容
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信頼醸成、相互理解
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問題・期待・懸念・論点の可視化・論題構築
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問題解決の探索
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未来ビジョンの形成
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回復と和解
これらを、ステークホルダー同士の関係構築により達成できると想定しています。

2.コミュニケーションとは何か
コミュニケーションは、日本語で「伝達」「連絡」「情報」「通信」と訳されます。この語源はラテン語の「分かちあうこと」を意味する名詞communicatio(コミュニカチオ)、あるいは、「共通の」「共有の」を意味する形容詞communis(コミュニス)です。本講義では、コミュニケーションは「対人関係の中で意思、感情、思考を伝達し、理解しあうこと」と定義しました。これらはそれぞれ以下のように、科学技術コミュニケーションの目的と対応しています。
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意思
意思は、意識的な身体の動きである行為を促します。行為の中には、意思を他者に伝えることで、他者の行為を促すものもあります。科学技術コミュニケーションの目的としては、行動変容・問題解決の探索などと対応しています。
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感情
感情は、気持ちに関連しています。自分の中だけでなく、愛情を他者に伝える場合などのように、他者に向かっていく感情もあります。科学技術コミュニケーションの場面においては、関心喚起、文化的享受などを目的として、科学の面白さ、価値を伝えることと対応しています。
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思考
思考は、認識・推測・判断・理解など、対象について考える働きです。科学技術コミュニケーションにおいては、教育、啓蒙などの目的と対応しています。
コミュニケーションは、これらを記号に置き換えて相手と共有する活動です。これらを伝える手段として、ライティングやグラフィック、映像などがあり、科学技術コミュニケーターはこれらを学んでいきます。
3.伝達、理解について
コミュニケーションには伝達と理解という要素があります。ここでは、伝達モデルと理解モデルについて学びました。伝達モデルとは、送り手が正確にメッセージを伝達することを重視するモデルであることに対し、理解モデルとは、受け手がメッセージを解釈し、理解する過程に注目するモデルです。
ここで、このモデルを表すそば屋の客と主人の以下の例が挙げられました。
そば屋で客がとろろそばを注文しようとして、主人に向かって「ぼく、とろろ」と言いました。
それに対して、主人は「あなたはとろろではなく人間です」と言いました。
伝達モデルの観点からすると、客から主人にメッセージを伝えることができているので、コミュニケーションは成立していると考えます。しかし、このコミュニケーションでは、「とろろそばを注文する」ということが伝わっていません。そのため、コミュニケーションが成立していないと考える立場が、理解モデルです。
科学技術コミュニケーターは、科学の知識を正確に、かつ分かりやすく伝えることを重視します。また、科学技術コミュニケーションは受け手に関与すること(行動変容、関心喚起、理解増進)を目的とします。そのため、科学技術コミュニケーションは伝達モデルと理解モデルの両方を採用します。これらのモデルから分かることは、「科学の知識を正確に、かつ分かりやすく伝えること」が必要でも、それだけでは受け手に十分ではないということです。

4.相互行為と構成主義
コミュニケーションは対人関係の中で行われます。相互行為とは、相手の行為に対応した行為を取り合うことを言います。一見、意思、感情、思考は個人の中で生まれるものと考えられますが、相互行為という要素を加えると、コミュニケーションを通してこれらが生まれると考えることもできます。これは構成主義の考え方です。例えば生成AIと会話しているうちに、AIに感情があるように感じることも、構成主義の考え方に当てはまります。
5. 科学技術コミュニケーションとコミュニケーション
ライティングや講義など、双方向的でなく一方向的なコミュニケーションは、しばしば良くないと考えられてしまうことがあります。しかし、このような考え方は誤りであり、目的によって手法を選ぶことが重要です。コミュニケーションのモデルはコミュニケーションの切り取り方によって異なるため、どのモデルが正しいなどはありません。
また、科学技術コミュニケーションは手段であるだけではなく、それ自体を目的と捉えることもできます。例えば、クマ駆除の賛成派と反対派が10年もの間対話を行なっても、合意できなかったとします。合意することを目的とすると、目的を達成できなかったことになりますが、10年間話し合って歩み寄ったことに価値があると考えることもできます。このように、科学技術コミュニケーションは、それ自体を目的として捉えることもできます。ただし、結論が見えているのに「対話をした」という事実を得るために対話をするコミュニケーションに陥らないように注意する必要があります。

6. 科学技術コミュニケーションには仲間がいる
CoSTEPで取り扱うのは、「誰も答えを知らない問い」です。この問いに向かうためには、以下の3つのポイントがあります。
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仲間と一緒に学ぶこと
仲間の考え方を柔軟に受け入れ、アドバイスを聞き入れる心の柔らかさが大切です。
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試行錯誤から学ぶこと
経験的・帰納的に獲得される非言語的・潜在的な知識やスキルに敏感になり、それらを言語化することも必要です。
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仲間と一緒に「誰も答えを知らない問い」と「試行錯誤」を楽しむこと
答えのない状況を受け入れて、熟慮し、挑戦する姿勢を賞賛し、失敗してもポジティブに考えるに考える姿勢を持つことが大切です。
7.最後に
今回の講義では科学技術コミュニケーションの定義からコミュニケーションのモデル、さらに仲間と一緒に学ぶ際の姿勢についてのお話がありました。CoSTEPで1年間科学技術コミュニケーションを学んでいく土台として、科学技術コミュニケーションとはどのようなものなのか、どのように学び、活用していくのかについて考えるきっかけとなりました。
