サイエンスカフェの運営、電子書籍の制作、記事執筆のためのインタビュー、映像編集。この1年間で、本当にいろいろなことをやってきました。どれもCoSTEPで学ぶことで得た、貴重な経験です。今回はその中でも僕が最もこだわってきた「書くこと」に関して書きたいと思います。
CoSTEPで最初に書いた文章は、サイエンスカフェのチラシ裏に載せるゲストの紹介文でした。カフェの導入として研究内容に興味を持ってもらえるように、そして、だれにでも分かりやすく、かつ科学的に正しく紹介する。その責任が重くのしかかった上に、限られた文字数の中で科学的な事実を正確に表現することが難しく、どう書いたらよいのかさっぱり分かりませんでした。迷走を始めた文章に収集はつかず、結局、先生が作った文章に差し替えることになりました。自分の力量不足を痛感し、とてつもなく悔しかった苦い思い出です。
「この1年で文章はうまくなった?」CoSTEPの修了式が間近に迫ったころ、聞かれたことがあります。僕はこの1年間、電子書籍や北大広報誌『リテラポプリ』の制作など、書くために多くの時間を費やしてきましたが、正直なところ、文章能力が飛躍的に向上したとはいえません。仮に今、サイエンスカフェのゲストの紹介文を書いたとしても、やはり責任を感じ、科学的正しさを限られた文字数で表現することに苦労すると思います。しかし、文章を書くということの難しさを1年かけて徹底的に学んできたからこそ、その苦労が何を意味しているのか気がつけたのだと思います。
読み手を想定する。自分が何を伝えたいのか、どのような表現が分かりやすいのか考える。そして、何度も何度も文章を吟味しながら、一字一句無駄のないように書き直していく。これほど大変な作業は、たった1年勉強して簡単に身に付くものではありません。しかし、だからこそ、その苦労を積み重ねていくことで、一つひとつの言葉に重みが出てくるのだと思います。僕はこの1年、なんとなく「文字には力がある」と思い、書くことと向き合ってきました。その明確な理由はなかったのですが、CoSTEPでの学びを終えた今なら、分かるような気がします。
- 三ツ村 崇志
- 北海道大学 理学院 修士1年