実践+発信

世界一空が美しい大陸 南極の図鑑

2011.3.8

著者:武田康男 著

出版社:20100800

刊行年月:2010年8月

定価:1600円


 著者の武田康男さんは、気象予報士の資格をもつ高校教員で、地学を教えている。これまでに世界各地の「空」を観察し、撮影してきた人物だ。世界の空を見てきた著者にとって、南極は特別な場所である。なぜなら南極は、人間によって放出される汚染物質の主要な発生源から最も遠く離れており、「世界一美しい空」があるからだ。そういった極域の澄んだ空の色やオーロラなどの特有の現象に心を惹かれ、武田さんは南極地域観測越冬隊員として南極へ向かうこととなる。本書には、そんな南極での貴重な体験や現象が記録されている。今にも動き出しそうなオーロラや、南極の静けさを包み込むような空が赤く染まる朝焼けや夕焼け……。南極特有の現象に関するたくさんの写真と著者の科学的解説が南極の世界へと優しく誘ってくれる。

 

 

 南極に行けるとしたら、どんな現象を見てみたいだろうか。南極で見られる現象として、まずオーロラが挙げられる。なぜオーロラは南極などの極域で多く見られるのだろうか。この本では、写真とともに解説が加えられており、さまざまな現象がどのようにして起きるのかについても知ることができる。南極でよく見られるオーロラは、「緑色をした、風でなびくカーテンのようなオーロラ」と武田さんは語る。その色は、空気中の酸素原子が発する色だ。空気中に含まれる原子や分子の種類、高度によるそれらの密度やエネルギーの違いによって、オーロラの色は変化する。著者は、より高いところで輝く青色や紫色をしたオーロラに注目して観察を行い、写真に収めている。薄明の空に筋状に光り輝く、透明感のある青や紫のオーロラはとても神秘的だ。

 

 

 オーロラ以外にも、南極にはさまざまな現象がある。「グリーンフラッシュ(緑閃光)」という現象を知っているだろうか。これは、「太陽が地平線から出入りする瞬間、一瞬だけ見える緑色の閃光」のこと。日本では、さまざまな条件がそろわなければ見ることができず、見えてもほんの一瞬で終わってしまう。しかし、南極は太陽が斜めにゆっくりと沈むためグリーンフラッシュが長く起こり、見ることのできるチャンスが比較的多い場所である。武田さんは、このグリーンフラッシュという現象について、「科学と美の世界を結びつける、とてもおもしろい現象」と語る。この本の写真を眺めていると、「美しい現象が、いつどこでどのように見られるのかを予測するという科学的なアプローチに、人をわくわくさせ、夢中にさせる魅力がある」という著者の考えが伝わってくる。

 

 

 この本はまさに、科学と美の世界が融合した一冊である。数々の貴重な写真を眺めながら、その瞬間の感動を味わうことができると同時に、写真の示す美しい現象がいつどのようにして起きるのかを科学的に知ることができる。私たちも少し注意を向ければ、日常に隠れた美しい現象を見つけられるかもしれない。そんな驚きや感動を体験してほしいという著者の思いが詰まった、子どもも大人も楽しめる南極図鑑。ページをめくるたびに未知の南極に出会えるだろう。

 

 

竹田 真佑美(2010年度CoSTEP選科生、札幌市)