実践+発信

検証 東日本大震災の流言デマ

2013.3.8

著者:荻上 チキ 著

出版社:20110500

刊行年月:2011年5月

定価:740円


情報リテラシーの向上に加えて「流言ワクチン」の接種を

 

東日本大震災が起きた2011年3月からの1ヶ月間に、震災に関するさまざまな流言・デマが、ウェブ上での書き込みやチェーンメールによって広がった。著者はそれら流言・デマの事例を取り上げ、ひとつひとつ検証し、流言・デマへの対処法を考察している。

 

 

 非常時に広まった流言・デマを平常時に振り返ると、「なんでこんな情報に振り回されたのか」と思う。情報が限られた非常時下では情報の真偽の確認もままならず、本当かどうかわからないけれど、もし本当だったら大変だから念のため知らせておこうと流言・デマを広めた人は多かった。その結果、必要な救援活動が遅れたり、被災者の不安感が増大したりした。流言・デマをなくすことは減災の観点からとても大事だ。

 

 

 流言・デマが広がってしまうとき、多くの人は創作者や発信者の「意図」を問題にする。しかし流言・デマが広がるのはそれを信じた人や広めた人がいるから。そこで著者は、流言・デマを流してしまう人の犯人探しや心理分析、責任追求を論じるというよりも、むしろ流言・デマを減らすための対処法探しや流言・デマが広がる原因の考察の方を重視する。

 

 

 流言・デマへの対処法としては、個人の情報リテラシー向上がよく挙げられる。しかし震災などの非常時にはリテラシーを発揮しづらい状況が多い。また、個人が騙されないようにしようという議論は“騙された当人が悪い”という話になりがちだ。著者は個人の情報リテラシーの底上げは必要だとしつつ、社会全体のリテラシーの底上げには非常に時間がかかるため、より実践的な対処法として「流言ワクチン」を勧める。流言・デマが拡散する様子は感染症の拡散に似ている。感染症を予防する(あるいはかかりにくくする)には、毒性をなくしたり弱めたりした病原体をあえて摂取するワクチン接種が有効だ。そこで流言・デマについても、あらかじめ過去の事例を知っておくこと、あえて騙されてみるという疑似体験をすることで流言・デマにかかりにくくなるのではないかと著者は考える。なぜなら、国や時代が変わっても流言・デマのパターンはそれほどかわらないからだ。そこで本書は東日本大震災の流言・デマを「注意喚起として広まる流言・デマ」(第1章)、「救援を促すための流言・デマ」(第2章)、「救援を誇張するための流言・デマ」(第3章)に分類し、検証している。そして最後に「流言・デマの悪影響を最小化するために」(第4章)どうすればいいのか、を説く。それは要約すれば「内容を疑う」、「内容を確かめる」ということだが、では具体的にどうすればいいのか。著者はその実践方法を、情報技術を活用した具体例で示してくれる。

 

 

 2012年12月の、東北地方太平洋沖地震の余震とみられる地震の際にも、この本で取り上げられた事例と同じパターンの流言・デマが拡散した。“自分は流言・デマを広める側になったりしない”と思っているあなた。それが過信にならぬよう、ぜひ本書で「流言ワクチン」の接種を。

 

 

森川浩司 (2012年度選科受講生 宮城県)