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79サイエンスカフェ札幌「フカヒレ、いかがですか?気仙沼のヨシキリザメ漁をとりまく科学経済価値観~」を開催しました

2014.12.23

2014年12月14日(日)、紀伊國屋書店札幌本店前インナーガーデンで、第79回サイエンス・カフェ札幌「フカヒレ、いかがですか? ~気仙沼のヨシキリザメ漁をとりまく科学・経済・価値観~」を開催しました。衆議院総選挙投票日や人気グループのコンサートが重なるなか、約50名の方が会場に足を運んでくれました。外はとても寒かったですが、ゲストの石村学志さんと参加者が「熱い」1時間半を共有しました。

「漁業のための天然資源経済と政策」を専門とする石村さんは、北海道大学サステイナビリティ学教育研究センターの研究員です。「サステイナビリティ」という言葉はなじみがないかもしれませんが、「持続性」とも訳され、「持続的開発」と同様の意味でも使われる言葉です。持続的開発とは「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たす開発」(Brundtland Report)であると特徴づけられます。

石村さんは、二つの持続性に注目します。まず魚には、「再生産性天然資源としての水産資源」という意味で、持続性がなければなりません。この水産資源を持続的に利用するためには、「持続的な漁業」が行われる必要があります。それには、漁業が私たちの食料を供給し、雇用を創出しているという経済・社会の側面に注目しなければなりません。一方で漁業は、利益を得られるといった「経済動機」がなければ、廃れていきます。石村さんは、この経済動機の観点から水産資源を管理する方法論を研究してきました。

    (気仙沼で獲れたヨシキリザメの顎の骨を展示)

さて、漁業が基幹産業である宮城県気仙沼市は、日本一のヨシキリザメ漁の産地。世界で唯一、鮫のほとんどの部位を利用する加工業が発達しています。ところが2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けました。石村さんは気仙沼の復興に、ヨシキリザメ漁の再生を目指して現場で取り組んでいます。

しかし、復興の途上で大きな困難が生じました。鮫漁業の反対運動によって市場が消失してしまったのです。特に海外の環境保護団体の反対運動によって大きな打撃を受けました。そのことで、ヨシキリザメの加工品が市場から締め出され売れなくなってしまい、価格が震災前の半額以下になってしまいました。これでは、鮫漁は大赤字で存続できません。

    (気仙沼で石村さんと「持続的な漁業認証」取得へ向けた活動をする、北大院生の島畑淳史さん)

そこで石村さんたちが目指す戦略は、世界で最初に鮫の「持続的な漁業認証」を取得することです。石村さんは自ら、反対運動の世界的な拠点である香港に赴き、7つの団体と交渉しました。心がけたことは、共通の土俵(common ground)を探ること。正しい情報を伝えるだけでなく、どうすれば彼らが鮫漁を認めてくれるか、議論を戦わせたといいます。実際、北太平洋のヨシキリ鮫の資源は、持続的な漁業が営める最大漁獲量を60%も上回るという科学的データが今年の11月に発表されました。そうした科学的根拠に基づいて、鮫資源が枯渇していないことを、国際的な漁業認証の取得によって反対者に認めてもらい、漁業を通した復興を目指すのです。

日本の漁業は大きなポテンシャルをもっているので、それは可能だという石村さん。「こうして、日本だからこそできる漁業を創り、新しい漁業のかたちを世界に示せるのです」と熱く語りました。

今回のサイエンス・カフェでは、気仙沼のヨシキリザメ漁というローカルなテーマを切り口に、国際的な漁業認証というグローバルな話題まで、さまざまな要因が絡み合うなかで、私たちが漁業資源・資源管理に関してどのように行動したらよいか、考えるヒントになったのではないでしょうか。

このカフェに連動したワークショップを1月17日(土)10時から開催します。詳細についてはこちらからご覧ください。