実践+発信

三省堂サイエンスカフェ “水がまわれば暮らしもまわる開発途上国の貧困をトイレから解決~”を開催しました

2015.3.1

2月28日(土)、第21回三省堂サイエンスカフェ in 札幌 ”水がまわれば暮らしもまわる~開発途上国の貧困をトイレから解決~”が開催されました。

ゲストには、水処理研究がご専門の北海道大学工学研究院教授の船水尚行先生を迎え、アフリカのブルキナファソで研究中の取り組みについてお話頂きました。

ファシリテーターを務めたのは、CoSTEPの7期修了生の田中加奈子さんです。田中さんは、3年前にCoSTEPを修了した直後、JICAの海外青年協力隊員として、アフリカのウガンダへ赴任し、森林保全活動を2年間行いました。しかも船水先生は、3日前にブルキナファソから帰国したばかり。先生は「まだ時差ぼけだよ」と苦笑いでしたが、このアフリカ通の二人が、現地の様子を紹介しつつ、お話が進みました。

初めに田中さんが会場に質問を投げかけます。「アフリカってどんなイメージですか?」。会場からは、サバンナ、動物がいっぱい、荒野、ゾウといった回答がでました。それに対し、田中さんは、赴任していたウガンダの首都、カンパラの写真を見せ解説します。写真には都会の風景。携帯電話もあればショッピングモールもあります。住んでいた家も、キッチンや水洗トイレのある、現地では立派なものでした。

では、それに対して、船水さんが研究中のブルキナファソはどんな国なのでしょうか。

ブルキナファソの暮らし

ブルキナファソの農村部の暮らしは、水洗トイレやキッチンはありません。水もポリタンクで井戸から汲んでくる生活です。10人ほどの大家族で暮らし、主人は畑を耕し生計を立てますが、日々の野菜は、婦人たち(一夫多妻制)が作る野菜畑からのものを食します。収穫野菜であまったものは、市場で売り、収入を得ます。

ブルキナファソは、世界でも下から二番目に貧しい国です。トイレも、日本の普及率が100%であるのに対し、わずか19%です。5歳以下の乳児の死亡率も日本の0.3%に対し、9.8%と高い割合です。主な死亡原因の1つに、「下痢」が挙げられます。これには、衛生状態の悪さが関係しています。

衛生状態を改善するためといえども、貧しい生活を送る現地の人にとっては、すぐにコストのかかるトイレを導入することはできません。重要なのは、明日の食料だからです。

コンポストトイレの役割

コンポストトイレとは、糞便を微生物分解させて、肥料として使うためのものです。中には、おがくず・もみがらを入れて、酸素を好きな細菌(好気性細菌)を入れ、分解させます。動物園などにあるものは、電気の力で攪拌(かくはん)させますが、電気のないブルキナファソで使うトイレは、なんとトイレ自体を回し、攪拌します。(動画

尿と雑排水(尿以外の水)のリサイクル

まず尿は、一日日光で殺菌し、寄生虫を死滅させて、畑の肥料として使います。水浴び、洗濯に使った水は、ろ過装置を通し、畑への水にします。3mくらいの長さの木の箱に砂をつめ、その中に水を通します。砂の粒子に微生物の膜ができていて、それが排水を分解し、きれいにしてくれます。

トイレが回る暮らしがまわる

炊事、洗濯、畑仕事、水汲み、子育ては女性が担っています。そこで船水先生は、「トイレを入れればお金が儲かるしくみを示せば、導入してくれるのではないか」と考えました。そのしくみとは、トイレを持たない現地の人たちは、水浴び場で尿をします。そこで「尿と雑排水のリサイクル」で得た水と肥料、そして「コンポストトイレで作る堆肥」で畑の野菜を育て、生産性があがれば、収入を得ることができ、子供の栄養状況も改善します。

(図1 北海道大学工学研究院教授 船水尚行 提供)

また、乾季でも上手に水処理と堆肥を作ることができれば、収入を得ることができます。


トイレも水も回して暮らしもまわる。そんな生活が遠い国の出来事ではなくなる日が、すぐ近くまで来ているのかもしれません。
船水先生、田中さん、ありがとうございました。