実践+発信

チラシデザイン:ラベルのない細胞から見る食肉

2016.3.11

制作者:松尾 知晃(2015年度本科・農学研究院修士課程1年)/制作年月:2015年11月

2015年12月6日(日)に開催された第85回サイエンスカフェ札幌「ラベルのない肉~細胞から見る食肉~」のチラシデザイン報告レポートです。チラシデザインを担当したのは、本科デザイン実習を専攻している松尾知晃さん(2015年度本科・農学研究院修士課程1年)です。

カフェの内容を知る

毎回様々なゲストを招き、そのゲストの方に合った形式で企画・実施しているサイエンス・カフェですが、今回はゲストの西邑隆徳先生(北海道大学農学研究院 教授/筋細胞生物学)と「対話の場の創造実習」メンバー(以下、対話班)とのやり取りの中で徐々に内容を詰めていくという企画スタイルでした。そのため、まずは対話班のミーティングに参加し、メンバーが何を考えているのかを把握するところからのスタートとなりました。

今回のサイエンス・カフェのテーマは、「肉」。何度かミーティングに参加する中で、カフェの方向性は、「私たちが普段肉を選ぶ際に重視しがちな値段や産地といった情報を取っ払って、もっと肉そのものに注目してみよう」というものであることが分かりました。今回のゲストである西邑先生のご専門は、筋細胞生物学。肉を構成する細胞には主に筋細胞と脂肪細胞があり、それぞれ赤身の部分と脂身の部分となっていますが、西邑先生はこの両者のバランスがどのように決まるのかを研究されています。カフェでは西邑先生の研究内容をとっかかりとして、来場者の方々に肉とは何なのか?どんな肉が美味しい肉なのか?を考えてもらいことになりました、それを踏まえ、チラシを見た人が肉の話を聞きたくなるようなデザインを目指し、チラシ作りに入りました。

 

(まずは肉と向き合う、ということで、パック入りした肉を眺めて、比較していました。)

伝えたいことの本質を考える

さて、肉と聞いて、皆さんは普通何を思い浮かべるでしょうか。一口に肉と言っても、色々な肉があります。豚でしょうか、牛でしょうか。それともラム?食べ方も、焼肉から肉じゃが、ハンバーグまで、肉の食べ方を挙げたらきりがありません。

色々なアイディアの中から、チラシデザインに使うものを絞っていくに当たって、いくつかの条件を考えました。まず、何よりも先に、強烈な肉の印象が必要です。見た人が間違いなく肉だと分かるような、圧倒的な存在感。肉があってこそ成立するカフェのため、存在感を重視することにしました。第二に、カフェの内容を暗示させるようなデザインであることが必要です。そのためには、タイトルと整合性があり、且つチラシを見た人が少し内容を想像できるデザインであることが重要でした。そこで、これら二つの条件を満たすデザインを突きつめていったところ、肉の塊という案が出てきました。

私たちがふだん目にする肉は、すでにスライスされた形で売られています。場合によっては、パッケージにすでにカレー用などと用途が書いてあったりします。すなわち、パッケージに入って売られている肉は、その時点で、スライスの仕方や表示などによって、本来の肉そのもの以上の情報が与えられています。しかし、スライスされる前の肉の塊ならどうでしょう。肉の塊からは、すぐに特定の食べ方をイメージするのは難しそうです。肉の塊によって、今回のサイエンス・カフェで扱う「肉そのもの」を端的に表せるのでは、と考えました。

そこで、肉の塊をチラシデザインの素材として使うことにしました。肉の塊は、なるべく大きく鮮やかで、かつ筋細胞の集まりである赤身と脂肪細胞の集まりである脂身の部分がはっきりと見えるようなものにしました。斜めに配置することで、奥行きが生まれ、より立体的な「塊」としての肉が強調されるようにしました。また、Adobe Illustratorを用いて角度や影、といった要素に手を加え、チラシにフィットするように仕上げました。値段や産地といった情報から解放された「肉」は物質としての存在感を悠々と放ち、見る人の焦点が当たるようになったのではないかと思います。

さらに、試行錯誤している最中に、今回のカフェのタイトルが「ラベルのない肉」、サブタイトルが「細胞から見る食肉」と決まったので、それらを暗示的に表したいと考えた結果、飼育されている牛の耳についている個体識別用のタグにたどり着きました。牛は一般的に、耳に付けられたピアスのような黄色いタグによって管理され、適切な月齢を迎えたころに、私たちの食卓へと運ばれてきます。今回はそのタグを、キーワードである「ラベル」という文字に引っ掛け、今回のもう一つのキーワードである「細胞」の背景として見せることにしました。食肉として生産される家畜(特に牛)を大なり小なり連想させるようなデザインに仕上げることができました。

(完成したチラシデザイン)

デザインもイベントの一部分

チラシ作成に当たっては、インパクトと美しさに気を付けました。チラシを見た人が、「肉食べたいな」「肉の話聞きたいな」と思ってくれるようなデザインを心がけました。上述したように、肉の圧倒的な存在感が際立つようにしました。また、配色は赤と白を基調色とし、統一感を持たせるようにしました。赤と白をベースに黄色いタグをアクセントとして加えることで、視覚的に見やすいデザインになったと思います。

今回のサイエンスカフェでは、腕に貼られたラベルを模したシールをスタッフが剥がす、という象徴的なシーンがあったのですが、そのシールも制作しました。加えて、スタッフ用のネームタグもデザインしました。こういったプロセスの中で、デザインがイベント全体の雰囲気を決める効果を持ち、デザイナーがイベントの作り手にもなり得るということが分かりました。

(腕に貼られたシールもデザインしました。)

主体的に関わる

チラシデザインを通して、対象となるイベントがどのような目的で行われるのか、必要とされる条件は何なのか、といったことをデザイナーがきちんと把握し、その上でデザインをしていくことが重要だと理解しました。デザインを依頼する側と依頼される側の間で、コミュニケーションをとりながら共同作業を進めた経験はとても貴重なものだと思います。大切なのは、デザイナーはただ制作物の完成度だけを考えるのではなく、イベントとその周辺分野について深く理解し、常によりよくしていこうという気持ちを持ち続けることではないでしょうか。

今回の実習にあたって、ご指導くださいましたデザイン実習の大津珠子先生、村井貴先生、対話班の朴炫貞先生、そして私をメンバーとして迎え入れてくださった対話班の受講生の皆さん、本当にありがとうございました。

(ゲストの西邑先生と)

おまけ

当日はカフェ終了後、グッドデザイン賞の受賞記念撮影が行われました。これまでサイエンス・カフェ札幌、そしてCoSTEPに関わってこられた修了生やスタッフの方々と一緒に、自分でデザインしたチラシを持って写真に収まれたことはとても幸運でした。その夜、自宅で、チラシに印刷されたグッドデザイン賞のロゴを見ながら、一人ニヤニヤしていたことはいうまでもありません(笑)。