晴天となった5月14日。CoSTEP開講式にあわせて開催した特別講演会に140名を越える方々がつめかけました。ゲストは水族館プロデューサーの中村元さん。タイトルは「水族館に奇跡を起こす ~科学を“大衆文化”にする逆転の発想~」です。大好評だった講演の一部をご紹介します。
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「水族館はメディアです。伝えるものが大きければ大きいほど、お客はたくさん来る」
「展示物は情報。お客がそれを読んで、見て、理解してくれるか?届かないものは情報とはいわない。ただのデータです」と、魚の名前なんかたいして知らないし、好きでもないという水族館プロデューサー中村元さんは、関西訛りでいきなり話し始めた。
リニューアルの達人
中村さんは、どんな仕事をしてきたのか。2011年にリニューアルされた東京・池袋のビルの10階と11階にあるサンシャイン水族館では、正面玄関のプールでまず「大量の水」を感じてもらう。入ると圧倒されるような大水槽「サンシャインラグーン」も、実はそんなに広くない。いろんな仕掛けをすればどこまでも広がる海の世界を表現できる。洞窟の向こうに「青い海」を見せれば、広く見える。狭いビル内の空間はいろいろな「錯視」を応用するだけで世界が変わるのだ。
「なんにもかわいくないどこにでもいるミズクラゲのトンネルがなぜ人気があるのでしょう?」。ふわふわとした浮遊感が魅力の原点であると中村さんはいう。氷の下のバイカルアザラシ、動く水草の中のアユ、屋上の天空のアシカ……。
北海道・留辺蘂の北の大地の博物館(2012年リニューアル)は、木造平屋建ての小さな水族館だ。滝壺の底で泳ぐオショロコマ、日本最大の淡水魚イトウの食事ライブ、革の水を引き込み冬には凍結した氷の下に魚が見られる世界初の水槽……。
「イトウは生きたニジマスの子を食べさせています。命をいただいているという現実を伝えるのも大事なこと」。
こんなリニューアルで、入場者数は驚異的な増加を見せた。たとえば、サンシャイン水族館では70万人が3倍以上になったという。
オトナの知的好奇心のために
動物園や水族館の団体である日本動物園水族館協会によると、その目的は1)種の保存 2)教育・環境教育 3)調査研究 4)レクリエーション、という。
「ちょっと違うやろ。絶滅の怖れをなくすために『こういうものがいますよ』と伝えるところでしょ?」「学問や科学って社会、生活のために生まれたんでしょ? 動物や魚の研究の中心にいる人が社会と生活を知らない。科学ってそういう生活から入らなくちゃいけないんですね」
つまり、教養知識を高めるための社会教育を主たる目的としようと中村さんは主張するのだ。絵本などで見る動物が多い動物園が子供とその家族向けだとすれば、水族館はむしろおとなが好奇心を満たすような施設であるべきなのだ。オトナの好奇心に耐えられる水族館であるべき。つまり、「来る客を起点にして考えることが大事」というのが、プロデューサーとしての発想だった。「今までの動物園や水族館は、目的として自分たちが存続するための言い訳ばかり考えてきた。そんなんいらんでしょ」と言い切るのである。
大人は何を求めて水族館に来るのか?
「水族館の水槽を見て、これはカリフォルニアアシカか?オショロコマか?とまず考える人はそんなにいない」求めるのは、水の世界=水塊が与えるいろいろな自然の様々な姿なのだ。水の青い色、その清涼感、クラゲの浮遊感、立体感、奥行き感、魚が泳ぐ躍動感……地上では味わえない感覚が水族館にはいくらでもある。
客の心理も考えながら見せる仕掛けも考えるべきだという。客の「一生懸命さ」は最初の水槽がもっとも高く、あとになるに従って「飽きてくる」というのも真実なのだ。そんな簡単なことが「伝えるため」に重要だ。
見てもらってこそ、知的好奇心が大人にわく。滝壺水槽をじっくり見るからこそ、オショロコマとはどういう魚なのか、知りたくなってくるのだ。
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「魅力的な生物がいなくても、寒くて人も少ないところにあっても、金がなくても、それなりに考えれば、北の大地の情報を伝える展示を作ることはできるのです。」
一般常識からは弱点と思えることが、実は次へのステップとなる。弱点を克服していたらきりはないし、その必要はないのだ。「出口へ行く道はたくさんある、行き止まり?すごくいいです」。この多様性を大事にする逆転の発想が、奇跡を起こすプロデュース力、と中村さんは話を締めた。
(文:内村直之)