著者:山村紳一郎
出版社:誠文堂新光社
刊行年月日:2009年6月
定価:1500円
「いきものもどき」と聞いて何を想像するだろう?人間モドキを知っているのは、50代半ば以降の漫画やテレビ好きの少年のなれの果てくらいか。「もどき」とは似て非なるものを指す言葉なので、筆者自身はこのタイトルから「いきものに似て非なるもの」つまりは非生命体を想像してしまう。しかしこの本は、あるいきものに対して外見の似たソックリさんたちのオンパレードの本である。表紙と裏表紙にはそれぞれ一対の「もどき」と「本家」と称されるいきもののイラストが並べられており、本書の内容が一目でわかるようになっている。
紹介される「もどき」は全45種で、菌類から植物、昆虫、魚類、哺乳類に至るまで多様である。番外編として11のコラムが有り、「ニセ」「ダマシ」など「もどき」の仲間が紹介されている。構成は生育場所によって5章に分けられており、1種ごとに見開きでイラストを使って対比させている。映画や宗教、昔話やダジャレなど幅広い切り口で、その独断的な解説は気楽な読み物となっている。
また、名前と分類など生物学的な見地から近縁関係を表す一方、8種の「もどきタイプ(型)」とイメージで付けた「もどきスタイル」を使った独自の分け方により、一層親近感を抱かせている。さらには、著者がもどきにどれだけ相応しいかを「てきとーに定めて」目分量で表した「もどき度」という新たな指標も用いており、よくもまあこれだけ「もどき」にたいして多角的に評価したものだと思う。中程には、全種では無いがカラー口絵として写真を使っての対比があり、理解を深めるのに役立っている(写真には本文へのページが記されているが、本文中から写真への参照が無いのが残念である)。
もどきという言葉自体「劣った」「偽物」「いかがわしい」というイメージが湧く。しかし、たまたま見た目が似ただけで「もどきだ」「だましだ」「にせだ」と言われる身にもなってほしい。確かに「似ている」と言う意味合いで使われていること自体、未知のいきものを理解する上で有効な方法ではあることは事実である。また中には、明らかに擬態したものもいて「もどきやむなし」といったものもいる。それでもカミキリモドキは別名のヤケドムシの方に特徴がより表れていると思うし(筆者はこの虫の体液でやけどのような症状になった)、サフランモドキは同属でタマスダレと言う名前があるのだから○○タマスダレで良いのではないか(個人的には大してサフラン似てるようには思えない)。
正直こうした安易な命名は、命名者の知識の貧困さ、観察力の低さを示しているのではないかと思う。ところが、あとがきで著者は、「名前付け」と言う遊びに熱中した時期のエピソードを通じて、命名する難しさを述べている。最初はいろいろ特徴的な名付けが出来るのだが、やがて安直な名前になるのだそうだ。地球上に推定で1億を超える生物がいて、そのうちのまだ200万程度にしか命名されていないと言われている。新種を発見して命名する人のことを考えれば、いささか仕方ないのかとも思えてくる。
著者は東海大学海洋学部卒業後、サイエンスライターとして雑誌や書籍の執筆の他、科学イベントプロデュースやテレビ番組の科学監修、科学館の展示企画もこなすバリバリのサイエンスコミュニケーターでもある。著者の言うこの本の狙いは、とにかく生物や生物学に興味を持ってもらいたい一心のようだし、それは手に取るようによく伝わってくる。洒落の効いた楽しい本で大人も子供も楽しめると同時に、サイエンスコミュニケーターを目指すものにも、十分な示唆を与えてくれる本でもある。
林忠一(CoSTEP13期本科ライティング)