実践+発信

安斎勇樹先生:「問い」「遊び」からデザインするワークショップを開催

2017.8.5

橋本 慎太郎(2017年度 本科/学生)

安斎勇樹先生(東京大学大学院 情報学環 特任助教)による講義「主体的な学びを引き出す『問い』のデザイン」では、主体的な学びを引き出すために、どのように「問い」をデザインしていけば良いのか、お話がありました。そして、講義の後には、講義中に受講生が作った「問い」をベースにしたワークショップが行われました。このワークショップのキーワードは「遊び」です。

(安斎先生のコメントとワークショップが進みました)

問いを因数分解する

まず初めに、「問い」とはどのような要素から成り立っているのか、「問い」の本質についての追加講義がされました。「朝ごはんに何を食べましたか?」よく雰囲気づくりのために使われる、この文章の要素とは何なのでしょう。これは「(あなたは、今日)朝ごはんに何を食べましたか?」と読むことができます。そして、「あなたは、今日」という要素と「朝ごはんに何を食べましたか?」という要素に分けることができます。前者は、時間を限定する「制約」であり、後者は過去の経験を探索させる「問い」であるとみることができます。時間の制約があることで、いつの朝ごはんかを迷うことなく答えることができます。もう一つの例題、「今月食べた最も豊かな朝ごはんは何ですか?」を考えてみましょう。先ほどと同じように「今月食べた」と「最も豊かな朝ごはんは何ですか?」に分けることができます。しかし、後者の「最も豊かな」とは何なのでしょう。この部分は、答えの範囲を決める「制約」でありながら、同時に価値観を探索させる「問い」を含んでいます。このように問いの文章を要素に分けることで問いの本質が見えてきます。安斎先生はこの操作を「問いの因数分解」と紹介されました。

(「問い」と「遊び」を学びにつなげます)

遊びのデザイン

問いの本質が見えてきたところで、ではワークショップの手法にどのようにつなげていくのでしょうか。1つの手法として、起こしたい学びの状況を作り出すために「遊び」を用いるという事例が紹介されました。安斎先生が実際に行われたコンビニリデザインワークショップです(リ・デザイン:デザインし直す)。ワークショップの学習目標を「観察力を磨く」ことと設定します。そのためにはどうしたらよいのか。観察させればよいのか……。ただ、これでは面白くありませんし、ひねりもありません。この目標をかみ砕いていきます。「観察力を磨く」ために、「日常の小さな違いを発見できるようになる」。そこで、日常でよく使われるコンビニエンスストアに着目し、「自分の好きなコンビニをPRするために、リデザインする」ということに落とし込みます。「コンビニをリデザインする」という「遊び」は、ワークショップ参加者をひきつけつつ、学習目標を達成する手段となっています。このように、ひねりのある「遊び」をワークショップで用いることで学習がより効果的になりうるのです。

(ここから議論をしつつ企画を作り上げていきます)

いざ、実践!

「問い」の本質、「遊び」という手法の機能を学んだ上で、グループに分かれてワークショップを企画しました。答えが一つに定まらない「問い」をグループごとに立て、どのような「遊び」にすればこの「問い」を効果的に考えることができるのかを試行錯誤しました。

「危険なものと危険なものを混ぜると危険なのか?」を「問い」としたグループは、科学実験を行い、中和させたものを実際に飲んでみたり、爆発させてみたりなど先鋭的な「遊び」を組み込んだワークショップを企画しました。

「自分にとって働くとはどういうことか?」を「問い」に設定したグループは、職業にまつわるカードゲームを企画しました。

「未来の人間の幸福とは何なのか?」を「問い」にしたグループは、人生ゲームをこの先の将来を考えさせるように1年間のスケールで行うといった「遊び」を考案しました。安斎先生からは、そのすごろく自体を作るワークショップもよいのではないかというコメントをいただいていました。

「勉強とは何なのか?」を「問い」に設定したグループは、シャッター街を復活させるための仕事を考えるといった「遊び」を通して、勉強の定義を問うようなワークショップを企画しました。

「いったいどこまでが人間(の範囲)といえるのか?」を「問い」としたグループは、「遊び」まで企画できなかったものの、仮面をかぶって練り歩いてみてそれは誰なのかを考えさせる「遊び」が安斎先生の講評の中で生み出されました。

「遊び」として機能しつつ、「問い」を見失わないようにするのは大変難しく、まとまりきらないグループもありましたが、さまざまなワークショップ企画が発表されました。

(出来上がった企画案を全体に共有します)

ワークショップを通して

実際にワークショップを企画するという体験を通して、その実態を体感することができました。ワークショップは思った以上に奥が深く、うまく使えば無限の可能性があるツールであると感じました。

安斎先生、ありがとうございました。

 

(懇親会でも話は尽きませんでした)