晴天に恵まれた2018年6月3日(日)、節目となる第100回サイエンス・カフェ札幌「THE イグ・ノーベル SHOW〜「研究」で笑い 「研究」で考える〜」を、北海道大学農学部本館大講堂で開催しました。
ちょうど、北海道大学札幌キャンパスは大学祭の最終日、学外からも大勢の方が学祭に足を運んでいました。そのためか、13:30の開場とともに120席用意した会場はあっという間に埋まってしまい、350名を超える観客で立ち見も出る大盛況となりました。
今回のサイエンス・カフェはいつもと趣向が異なっています。伝統あるハーバード大学サンダースシアターで行われるイグ・ノーベル賞の授賞式を再現するために、荘厳な雰囲気がある農学部大講堂をガーランドで華やかに飾り付けて会場にしました。そして、司会の古澤輝由(CoSTEP特任助教)と種村剛(同特任講師)は、タシキードに蝶ネクタイの正装で登場しました。
開会の挨拶はCoSTEP部門長の川本思心(理学研究院 准教授)が務めます。さぞ立派な演説が始まるかと思いきや、たった一言「ようこそ!」。しかし、これがイグ・ノーベル賞伝統のウェルカム・スピーチ(The Welcome-Welcome Speech)なのです。会場からは早くも笑い声が聞こえてきます。そして授賞式名物の、ステージ上の的に向かって紙飛行機を投げる儀式(そして片付け)も忠実に再現されました。
(咳払いから始まった部門長挨拶)
(人間ターゲットを務める種村とカウントダウンを行う古澤)
(満員御礼の会場に、たくさんの紙飛行機が舞い飛びます)
(ノーベル物理学賞受賞者ロイ・グラウバー氏の壇上掃除も再現)
まずは、”イグおじさん”こと古澤によるイグ・ノーベル賞愛が溢れる賞の解説です。1991年、ノーベル賞のパロディとして、ユーモア科学ジャーナル『Annals of Improbable Research』の編集長マーク・エイブラハムズ氏によって創設されたイグ・ノーベル賞は「人びとを笑わせ、そして考えさせた業績や研究(achievements that first make people LAUGH, and then make them THINK)」に贈られます。壇上では2017年度に流体力学賞を受賞した「コーヒーカップを持って後ろ向きに歩いた時に何が起こるのかについての流体力学的研究」の実験も披露されました。
(イグ・ノーベル賞への愛を語る古澤。タキシードとハットは、創設者マーク氏へのトリビュート)
(コーヒーを手に後ろ歩きするCoSTEP受講生岩澤さん。受賞研究によると、鷲掴みすると揺れが少ないそう)
次は、北大のイグ・ノーベル賞受賞者の二人による受賞講演です。一人目は、中垣俊之さん(電子科学研究所所長 教授)。粘菌に迷路を解く能力があることを発見した業績に対して、2008年イグ・ノーベル賞認知科学賞、粘菌を用いて鉄道などの最適ネットワークを設計する研究で、2010年イグ・ノーベル賞交通計画賞の二冠に輝いています。中垣さんは、粘菌を「単細胞は日本語ではバカにするような意味があるが、実は人が学ぶ点が多い」と紹介しました。
(研究内容だけでなく、イグ・ノーベル賞についても語ってくれた中垣さん)
(中垣さん、粘菌の実物も持って来てくれました)
二人目は、2017年にブラジルの洞窟に棲む昆虫「トリカヘチャタテ」の生殖器の形状が雌雄逆転していることを発見した業績に対して、生物学賞を受賞を受賞した吉澤和徳さん(農学研究院 准教授)。吉澤さんは、洞窟調査の際に着用したヘルメットにヘッドライト姿で「この発見でオスとメスについての辞書の書き換えが必要になった」と語りました。
(ヘルメットを被り、気合十分の吉澤さん)
(吉澤さんもトリカヘチャタテの交尾中の貴重な標本を)
ゲストが講演している最中、突然二人の女の子がステージに登場し「飽きちゃったからもうやめて!」と連呼し始めました。これは、イグ・ノーベル賞名物の「ミス・スィーティー・プー」を模しています。吉澤さんは、お菓子を取り出して女の子に渡し始めました。この「お菓子を賄賂にして時間を稼ぐ」ことも、本家授賞式で時々見られる微笑ましい光景なのです。
(8歳の少女に罵られるのが最も心的ダメージが大きいという研究があるそうです…)
お二人には、2017年のイグ・ノーベル賞のものを模したトロフィーと、副賞の10兆ジンバブエドルのパネルが手渡されました。しかし、10兆ジンバブエドルは、日本円に直すと約0.3円にしかなりません(2015年時点)。これもまた、イグ・ノーベル賞のクスッと笑うポイントになっています。
(3つ目?のトロフィと10兆ジンバブエドルを手にする中垣さん)
(研究調査で授賞式に出席できなかった吉澤さんのため、同じ研究室の谷口さんが2017年トロフィを模したものを作ってくれました)
休憩の後は、会場の皆さんからの質問に受賞者お二人が答える対話の時間になります。「粘菌は家でも飼えるの?」「チャタテムシを研究しようとしたきっかけは?」といった参加者の問いかけに、ゲストのお二人は、ユーモアを交えながら軽妙洒脱に答えていきました。
(会場からはたくさんの質問が)
最後は中垣さん、吉澤さん、そして聞き手の古澤による鼎談です。北大のイグ・ノーベル賞受賞者同士の対談は本邦初。そもそも「研究する」「役に立つ」とはどういうことなのかについてのお二人のお話は、イグ・ノーベル賞が「笑わせる」研究だけではなく「考えさせる」研究であることを再確認するものでした。
(基礎研究も大切。何かの役に立つかもという意識も大切)
会場では、2005年から始まって100回の大台を迎えた、CoSTEPのサイエンス・カフェ札幌を振り返る展示と、動画の上映も行われました。
(過去100回のチラシをモチーフにしたガーランドが会場を彩りました)
(過去のチラシと、100回を振り返る写真の展示。歴史を感じます)